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20240805

14時過ぎ、仕事がひと段落ついたので少し遅めの昼食をとろうと外へ出る。
「今日はカレーだな」と思い、ずっと気になっていた近所のカレー屋さんへ向かうことにした。

殺人級の熱光線がアスファルトを焼いており、すぐ仕事場へ戻りたかったが空腹に抗うこともできず、なかばゾンビと化した私は外へふらふら歩き始めた。
やっとの思いでお店へたどり着き、固く閉ざされた扉と風もないのに揺れる"CLOSE”にうなだれる。
「こんなことなら最初からコンビニにしときゃよかった」と、日曜日に少し歩いただけで筋肉痛となっている左足をひきずりもと来た道を戻った。

帰る途中にある交差点で"中華料理"と大きく書かれた真っ白なのぼりを見つける。太陽光を吸い込んでいるからか、はたまた反射してそう見えるのかわからないけれど、なんだかすごく輝いて見えるそれめがけ「コンビニ飯も飽きたしな」と、のらりくらり歩いた。

雑居ビルの1階にそのお店はあった。
店の外からなかを覗くが、信じられないぐらい薄暗い。台湾や韓国のホラー映画の演出でよく見る薄暗さである。
「いけるか?」と自分に問う。ここぞというところでまったく鳴らないおなかが苛立っている。ひと息ついて青色の扉を開けた。

なかにはコックっぽい服装のおじさんと、カジュアルチャイナ服っぽいものを着たおばさんがいた。カタコトの「いらっしゃい」を聞きながら席に着くと、おじさんが「あついよ。ここ座りな」と言って、おじさんとおばさんがおそらく昼食をとっていたのであろう席の向かいを指差す。
「たしかにすずしい席なんだな」と、案内された席の向かいに設置されたエアコンの冷風を浴びてうだったからだを冷やす。
おばさんも「あついでしょ」と、店内にある扇風機2台を強風にして私へと向けた。

定食は一律850円。高くも安くもない値段。数あるなかから麻婆豆腐定食を注文する。おばさんがお冷やを渡してくれ、おじさんが「はいよ」と言って座席から立ち上がる。ついでリモコンを手にして天井へ向ける。店内が一気に明るくなった。

しばらくして、おじさんが定食の乗ったお盆を持ってきてくれた。
ごはんと麻婆豆腐、サラダとスープ、それにお漬物がついている。けっこうなボリュームだ。
さあ食べようと手を合わせていると、おばさんが冷蔵庫から業務用のフレンチドレッシングを持ってきてサラダにたっぷりかけてくれた。かけすぎではと思うほどかけてくれた。謝謝。

少し深い平皿に表面張力ぎりぎり入っている麻婆豆腐は山椒が効いていて、けれどそんなに辛くもなくておいしかった。
サラダは特に感想もなく、ごはんは少し固いなと感じた。
スープはまったく味がなく、ユニークだった。なかには豆腐と海苔とキュウリが入っていた。あまりない斬新な組み合わせだなと思いつつ飲み干す。
定食も中盤にさしかかるころ「これ、サービス」とおばさんが山盛りの杏仁豆腐をくれた。気持ちが素直にうれしく「ありがとうございます」と満面の笑みでこたえる。だれかに感謝を伝えることが近頃めちゃくちゃ気持ちいい。

完食して手を合わせる。お会計をしながらおじさんに「お昼は何時までやってますか」と聞く。「ずっと。昼なんかない。いつでも!」と大きな声で応えてもらい、なんだか言い表せないけれど、すごい元気を分けてもらった気がした。

ものすごくおいしいわけでもないし、特別やすいわけでも量が多いわけでもないけれど、なんだかまた行こうかなと思える店に久しぶりに出会えた気がする。少し軽い気分で店を出る。変わらず降り注ぐ太陽に焼かれながら、けれど今年も少しは夏をたのしめるだろうかと期待する。

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