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【宮城オルレ】奥松島を歩くスピードで再発見する

 ひっそりとオープン2周年を迎えた、宮城オルレを知っているだろうか。

 「オルレ」とは韓国の済州方言で「通りから家に通じる狭い路地」と言う意味だ。今では総じて、歩く道やトレッキングコースの代名詞として使われるようになった。本場の済州オルレは、韓国でとても人気があるアクティビティの1つだ。日本では九州オルレが先にオープンし、それを追うように2018年10月、宮城オルレが誕生した。現在は気仙沼・唐桑コース、奥松島コース、大崎・鳴子温泉コース、登米コースの4つのオルレが整備されている。(登米、大崎・鳴子温泉コースは下記もご参照ください。)

 オルレの魅力は、普段であれば車で通り過ぎてしまう風景、あえて歩いてみようと思わない場所がトレイルになっていることだ。海岸線や山の自然、遺跡や温泉などの文化、そして民家の路地裏や田園風景など日常のすぐ隣にある風景。それらが混ざり合い、山岳トレイルとは異なる独特なコースを作り出している。距離はだいたい10kmでアップダウンも少ない。普段から歩いている人であれば楽々と、初めて歩く人にも程よくチャレンジしやすい。 

 中々遠出が出来ない時分である。おうち時間の+αのリフレッシュに、これから空気が澄んで青色の美しい奥松島コースを、一緒に歩いてみよう。

住宅地を通り抜けると、まさかの貝塚

 「歩き終わったら寄ってって。オルレの缶バッジあげるから。」地図の載ったパンフレットをもらいに観光案内所あおみなに立ち寄ると、おばちゃんに声を掛けられた。建物前には大きな案内板も出ている。これから奥松島の宮戸島をぐるりと一周巡る。距離は約10km、所用時間4時間、難易度中級程度のコースだ。デイバッグに飲み物と昼食を詰め込み、足元には歩きやすいハイキングシューズ。準備が整えば、いよいよ出発である。道中には矢印やリボンが見える範囲に必ず設置され、初めてでも分かりやすい。

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 歩き始めるとすぐに出会うのが、さとはま縄文の里史跡公園エリアだ。入り口には復元された竪穴式住居。サスティナブルな生活が1万年以上も続いた縄文時代が世界から注目をされているが、まさかの出だしから縄文である。この辺りには縄文時代から人々の生活があったのだ。歴史資料館には出土した土器や石器の展示をはじめ、マグロを船の上から狙う縄文人の模型がある。そんな昔から人間はマグロと格闘していたのかと驚きを隠せないが、マグロの骨も実際出土しているのだ。

 資料館の敷地を通り住宅地の路地裏を進むと、今度は突如として貝塚が現れる。住宅地の中に貝塚である。層がそのまま展示してあり、縄文人のゴミ捨て場から当時の様子を想像することもロマンがあって楽しい。車で来ていたら、果たしてこんな住宅地の奥まで入って来ただろうか。歩いて来なければ出会えない、日常の隣の風景が見られる、それがオルレの楽しみ方なのかもしれない。

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リアス海岸を眺めながらピクニックランチ

 縄文エリアを抜けると、周りは水田が広がる農業地帯だ。稲穂の収穫は既に終わり、茶色い風景が広がる。水田の周りは、陸の奥松島と呼ばれ、昔は海だった名残の白い岩肌が見られる。途中、大豆畑で収穫をしていたおじさんに声をかけられた。「オルレ歩いてんの?いやー、俺は歩げんなー。がんばって。」オープンして2年、着実に地元の方にもこのコースが認知されていることを感じる。そして足は、舗装路に農道、そして山道へ。ウッドチップを敷き詰めたフカフカの道や、落ち葉の上をカサカサと音を立てながら、足の裏からもこのコースを楽しめる。

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 水田エリアを抜けると、中間地点の稲ヶ崎公園だ。岬の先端にあり、周囲をぐるりと海に囲まれた最高のロケーション。リアス海岸の海岸線もダイナミックだ。芝生の公園にはベンチもあり、小休止にはちょうど良い。ここでピクニックランチを楽しみたい。奥松島コース内には飲食店がない為、ランチは持参だ。今回は奥松島への途中で通る、日本三景松島のぱんやあいざわさんでパンとガトーショコラを買い込んだ。外で食べるご飯は大概なんでも美味しいが、お湯を沸かしコーヒーを淹れ、贅沢な時間を満喫する。

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林道の緑に癒され、大高森を目指す

 昼食後はいよいよ宮戸島の内陸へ。里山の入り口の観音寺へ曲がる道路に、看板が立っていることに気づいた。タイトルは「はじめて世界一周した日本人 儀兵衛と多十郎」。船で大しけに遭い漂流し、その後13年かけて世界一周をして帰国した2人の出身地が、この地域らしい。歩いていたからこそ、立ち止まって読むことが出来た看板。こんな出会いもオルレの1つの楽しみだ。

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 観音寺の墓地を横切り、里山へ入って行く。今までにない位、傾斜がある山道を歩く。けれども整備が行き届いているので、しっかりと歩きやすい。上まで登ると、尾根に出た。木に覆われているので展望はあまり望めないが、気持ちの良い空気を思いっきり吸い込んで、坂道で上がった息を整える。1kmほど、たまに開ける太平洋を拝みながら、山道を進んでいく。最終目的地の大高森まではあと少しだ。竹林の間の長い階段を抜ければ、展望台が待っている。

 宮戸島の中心にそびえ立つ大高森。山頂の展望台からは、美しい松島湾と雄大な太平洋を360度の大パノラマで楽しむことができる。宮城オルレ・奥松島コースは、ここを目指して進んで来たのだ。遠くには蔵王連峰、泉ヶ岳、栗駒山と、宮城県の主要な山々が。反対側を見れば石巻・牡鹿半島だ。海の青と空の青が、凛として美しい。貝塚、水田、リアス海岸と歩いて来た中でのこの眺めは、ここまでよく歩いたね、のご褒美なのかもしれない。車ではない歩くスピードだからこそ、気づける、出会える日常のすぐ隣の風景がたくさんある。それが宮城オルレの醍醐味だ。

 展望台から下山をしたら、朝スタートした観光案内所あおみな前。追加ランチで名物の牡蠣食べ放題もよいし、ご当地ラーメンも捨てがたい。おばちゃんから缶バッジももらわなきゃ、と足取りも軽く大高森から山道を降り始める。

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