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奥さんの置き土産(オノマトペ×ピアノ)

「ねぇ、隣の家のご主人って独り暮らしだよね?」
 私は母に聞いた。
「そうよ、若夫婦だけど先月奥さんが病気で亡くなったでしょう」
「やっぱりそうだよね……」
(でも会話が聞こえるんだよなぁ……)
 そう思いながら数日過ごしていた。春になり暖かくなってきたので夕方窓を開けていると、隣から「夕飯はカレーだよ」とか「コーヒーでいいかな?」と、ご主人が話しているのが微かだが確かに聞こえてくるのだ。そして、それに対する返答も。
 そんなある日、親戚から苺を沢山送ってもらったのでお隣にお裾分けしに行くことになった。
 チャイムを鳴らし、出てきたご主人に思いきって尋ねてみた。
「あの……時々会話がこちらまで聞こえてくるんですけど今はお一人ですよ……ね……?」
 言い終わらないうちにあははと笑って彼はすぐ奥にあるピアノを指差した。
「奥さんの置き土産なんだけど、亡くなる前に僕が淋しくならないようにとボイスレコーダーにいろんな声を入れておいてくれたから、それをピアノに仕込んだのさ」
 そう言うとキーをひとつ叩いた。

「料理がどんどん上手くなってるね♪」

                 (了)


このお話はこちらの企画に参加していますφ(..)✨

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