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『弱いはつよい』のか? 〜大変な社会で仕事して気づいたこと〜

書評『弱いはつよい』 
塩出真央

詩作家の塩出 真央と申します。
評者である私について自己紹介をさせていただきます。

私は1989年岡山県生まれで先天性の脳性まひがあります。8歳まで宝塚で過ごしました。義務教育の9年間は普通校に通学し、たくさんの「前例」をつくることができました。高校からはちょっと状況が変わり、岡山養護学校に入学しました。その後は四国学院大学の社会学部カルチュラル・マネジメント学科にすすみます。大学では映画・演劇を中心に学び9歳から志す作家の夢に向け研さんを積みました。その頑張りで、卒業時には学院報奨金をいただくことができました(年間最優秀成績者学科代表)。


とはいえ、大学時代はいろいろなことがありました。男子寮に入りましたが半年でリタイア。どうしても夢が諦めきれず、3年半自宅から大学のある香川県善通寺市まで往復4時間かけ電車で通い、瀬戸大橋をざっと500回は渡りました。大学卒業後は、地元の就労継続支援A型事業所で内職に従事しましたが、できないことも多く1年10カ月で退職。その後、別のA型事業所で事務補助として5年間従事しました。今は縁あって笠岡市神島にあるB型作業所で利用者として働きながら、今自分に何ができるかを考え夢に向かってまっしぐらです。1日24時間では足りません。暇?がとても忙しく充実した毎日です。

こんな私ですが、今まで先輩や後輩などの友だちにはいじめられたことはありません。そして、家族。とくに母親は、障がい者だから支援学級でいいと諦めてしまう人ではなく、また、単独での電車通学も支援してくれました。母の作る料理はおいしくて、仮に嫌なことがあってもおいしい手料理を食べれば忘れることができます。おいしいものは私の味方です。他にも貯金の大事さや他者に感謝を忘れないことも教えてくれました。私が信念を持ってやることは、無理そうなこと以外は見守ってくれる存在です。私は一人では何もできません。まわりの人の支えがあってなんとか生き抜いています。

さて、今回、書評させていただく本は、2020年10月に風鳴舎から刊行された「弱いはつよい」です。著者の村上有香さんはダウン症があり、1999年に兵庫県で生まれました。

村上さん(左)伊藤さん(右)

本詩集には有香さんが9歳から20歳までの間に書き溜めた、選りすぐりの66篇の詩が収録されています。有香さんの詩は毎年行われる「NHKハート展」で5000篇を超える詩の中から選ばれ入選しています。その回数は6回にも及びます。

絵の伊藤美憂さんは村上さんとおなじ1999年神奈川県生まれで、ダウン症があります。美憂さんは15歳で油絵を書き始め、2018年の三菱地所の「キラキラッとアートコンクール」で優秀賞を受賞します。その他、企業のカレンダーや広報誌に表紙を提供するなど活動の幅を広げています。

著者の村上さんはこう言っています。

詩を書く時は、いつも、詩を書く音が聞こえてきます。楽しさのメロディーが聞こえてきます。言葉が脳の中から溢れ出てくるので、それをバーッとメモに残して、詩を作っています。と。村上さんには及びませんが、私はここに共鳴します。

弱いはつよい、のか?

「弱いはつよい」とはどういう意味か知りたくて本詩集を読みはじめました。

社会に出れば、感受性が強すぎることが生きづらさの元凶ではないかと思います。その場の空気を読まなくていいところで読みすぎてしまったり、感覚的にスッと理解しなければいけないことがどうしてもできなかったり。大学卒業後にいたA型の事業所で「あなたはこれからどうなりたいの?」と聞かれたから、「小説やシナリオや詩を書く作家を生業としたいです」と真正直に答えたら、「じゃあ、仕事なんてしている場合じゃなくて、家にこもって年金でなんとかやっていけるでしょ」と。さらには、手先が器用じゃなくて内職ができずにいたら、「奥で本でも読んでろ!」と罵倒されたり。さすがにこれは悔しかったです。ただ、相手がそう思っていることを私も自覚しておりましたので、結局、そう発言させてしまった自分自身に腹が立ち涙ポロポロ。虚無感に襲われ、自尊心もなくなり、どうしようもなかったことを覚えています。

それを見返したくて別のA型事業所で事務補助として五年間働きました。仕事自体は楽しくて必要な人材として認めてもらえましたが、仕事に熱中していると、創作ができず満たされない自分がいることに気が付いてしまいます。薬の量の調整のためどうしても一度離職しなければならなかったこともあって、思い切って、夢を大事にしようと今の作業所に移ることに決めました。社会で淡々と生きるためには感受性がまったくないのも困るけれど、強すぎるのも弱みでしかないです。マニュアルに従ってなかばロボットみたいに働くことも必要ですから...。感受性のばかやろう!と叫びたい。

でも、0から1を生み出す創作において、この感受性の強さと「できない」カラダを授かったからこそ見える世界。弱みこそが強みという名の個性になるとも思えたのです。サンキュー。それをあらためて読了後感じ、弱みを認め、どうやったらそれを強みに変えられるのか。その先は、自分自身がどう考えて行動するかです。みんなそれぞれ弱さがあるけど、そこをどう強みに変えていくか。そのためにも、気持ちを切り替えて自分を見つめる時間が大切なんじゃないかと思うんです。

私のONとOFFの切り替えかた

私は電車に乗ることが好きなので、この本の中では「電車を間違えた」という詩が一番好きです。以前、仕事で電車通勤もしましたが、毎日駅のコンビニでミルクコーヒーを買っていました。また、週に2回だけ、レジ横に置いてある一粒数十円のチョコもご褒美です。店員さんとの「いらっしゃいませ」「ありがとう」の他愛ないコミュニケーションにも救われました。社会はそんな甘くないから、甘みを摂取しないとね。これが私にとってのONとOFFを切り替える儀式でもありました。

私にとっては、コンビニや本屋さんがそんなスイッチの切り替え場所でもあるのですが、村上さんと伊藤さんのこの本には、甘いものが持つパワーにも似た、あふれ出すエネルギーがあります。この本をひらけば心が軽くなる言葉と絵が必ず見つかるはずです。職場の競争に飲み込まれて気持ちが切り替えられない方、赤ちゃんのお世話や病人の介護でおしゃれから遠のいている方々にも、絶対に刺さって癒してくれる言葉と絵があると思えます。おすすめです。ぜひ読んでみてください。

私はこの本を読んで、小さな幸せを見つけられる感性が大事だな〜とあらためて感じています。お二人に負けず、日常に起きる小さな出来事に何かを感じ、楽しくできるだけ楽観的に心動かしていきたいと思っています。そういった何気ない日常にこそ、詩に謳う、川柳で掬い上げたくなるような、面白い材料がやどっています。ありのままの自分を文字で表現していくためにも、小さな幸せを見つけられる感性を大事に磨いていきたいと思っています。


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