見出し画像

不安の正体がわかって目標ができると 「がまん」が「がんばり」に変わります

副島賢和(そえじま・まさかず)昭和大学大学院准教授、昭和大学附属病院内学級担当。学校心理士スーパーバイザー。公立小学校教諭として25年間勤務。2006年より8年間、昭和大学病院内さいかち学級担任。2014年より現職。ホスピタル・クラウンでもあり、2009年、ドラマ『赤鼻のセンセイ』のモチーフにもなった。2011年、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』出演。

生活のリズムを作る

安全や安心の中には、体調を整えることや生活のリズムを整えることも含まれます。学校が休み、テレワークなどの期間が続くと、何時までに登校しなければならない、職場に行かなければならないなどもなくなり、起きる時間が遅くなっていた人も多いと思います。そんなときには、まず起きる時間を設定するところからはじめてみましょう。

精神科の医師やカウンセラーは、うつ病や引きこもりの患者さんの生活リズムを整えるために、まず起きる時間を決めるそうです。

これは、東京学芸大学の小林正幸教授の作戦です。
「いま何時頃起きてるの?」
「11時くらい」
「ふうん、そうなんだ。何時くらいだったら起きられるかな?」
「10時だったら起きられるかな」
「じゃあ、10時に起きるのやってみたら?」
「やってみます」

そして、1週間後、次の診療の時はこんなやりとりをします。
「どう? 最近は何時頃起きてるの?」
「10時ごろ起きてます」
「約束続けてくれてるんだね」

11時に起きている子に、突然、「明日から必ず7時に起きましょう」と言っても難しいのです。30分でも、1時間でも、その子のペースで少しずつ早めていきます。「何時に起きられそう?」と本人に聞くのが大事です。

朝起きる時間が早くなってきたら、「朝ご飯の食器、並べるのお願いしていい?」「パン焼くのお願いね」など、その子ができる朝の仕事もあるといいですね。みんなのために役立っているという実感も、心の安定につながります。

休校中や長期休暇中も、お休みの日が必要

このとき大事なことは、お休みの日を作ることです。「寝坊していい日」を作りましょう。例えば、我が家はステイホームの期間もカレンダー通りにしていました。土日、祝日は、好きな時間に起きていいのです。

「生活リズムをつけましょう」と言うと、本当に毎日同じ時間に起きなければならないと受け取る方も多いのですが、お休みの日があることは、人としてとても大事なことです。そうじゃないと、続けることは難しいと思います。実際には、そういう休みの日に限って、子どもは早起きしてゴソゴソ動き出します。学校があるときにもお休みの日に早起きして遊んでいるのと同じです。

お休みの日には、親子でいつもとは違う休日らしい過ごし方ができるといいですね。例えば、休みの日はお父さんが豆を挽いてドリップする、子どもは勉強しなくていい、家事分担をほかの人と交代するなど……。

入院中の子どもたちも、病院にいると日にちや曜日感覚がなくなります。海軍は昔、金曜日はカレーライスだったそうですが、私の病院では水曜日のお昼ご飯は麺類と決まっています。カレンダーに斜め線つけていく、1日が終わったらシールを貼ってもいいですね。日にちや曜日感覚を保てるようにしておくと、人が生きていく中で大きな緩やかなリズムが流れていることを感じられます。

「新しい日常」などと言われますが、夏休みの短縮もありそうですし、急な休校などがいつ起こるかもわかりません。非日常が日常になっていく。そこに子どもとしての普段の日常をどのように入れ込むかをみんなで考えていくことが大事だと思います。

お休みがあると、「今度の休日は何しようかな」と楽しみにしたり、「明日はお休みだから今日はもうちょっとがんばろう」など、メリハリができます。病院の中にいる子どもたちは、院内学級のある日を楽しみにしています。

お休みの日の楽しかった体験を持って、子どもたちは学校に行きます。好きなアニメやゲームの話、友達と遊んだ話などを友達と共有します。それを面白がってくれる友達に会えることが子どもたちの楽しみでもあります。

休校でお友達に会えないときには、ぜひお父さんやお母さんが子どもの好きなことに興味を持って話を聞いてあげてください。私はいつも、子どもたちが読んでいる漫画やゲームに質問し、ちょっかいを出しています。「そのポケモンって強いの?」「へえ、それかっこいいね」と声をかけています。

大人も友達のように全部を詳しく知っている必要はありません。「あなたが興味を持っているものに私も興味を持っているので、教えてくれませんか?」という姿勢であればいいのです。子どもたちはきっと、意気揚々といろいろなことを教えてくれます。自分が興味を持っていることに興味を持ってくれる人と話すのは、大人も楽しいことですよね。

我慢と頑張り

少し話は変わりますが、私は歯医者さんがとっても苦手です。口の中に何かを入れられるのは私にとって拷問に近く、子どものころから歯医者さんに行くのが本当に嫌でした。口に機械を入れられて、ウィーン、ガリガリと歯の治療をしているとき、「これいつ終わるの?」「どうしたらいいのこれ?」「うわ〜っ」となって、その場から逃げ出したくなってしまいまう気持ちを必死でがまんします。

でも、歯医者さんが、「あと3分で終わりますよ」って言ってくれると、不思議なことにずいぶん落ち着きます。「あと3分がんばれば終わるんだ」という気持ちになるのです。この痛みがあと少しで終わると思えば、それまでどうしていいかわからずとにかくがまんするしかなかったことが、自分の意思でがんばれるようになる。終わりが見えたり、期限を切ってもらえたりして、その正体がわかって目標ができると「がまん」が「がんばり」に変わります。

今回の新型コロナウイルス感染による一連の出来事も、社会の様子を見ているとそのことがよくわかります。漠然とした不安がいっぱいだったときには、とにかくいろんなことを我慢しなければなりませんでした。いつまで続くのか、がまんしていればよくなるのか、本当に終わるのかと疑心暗鬼になっていると、不安はどんどん大きくなりました。

でも、専門家の人たちが状態を鑑別しながら一所懸命調べ、さまざまなデータや新しい事実がわかってくると、対処方法が少しずつ見えてきて、社会全体が少し落ち着いてきました。

例えば、どんなに走るのが得意な人でも、運動場のトラックをぐるぐると走らされているとき、いつまで走るのかわからなければ走るのは嫌になってしまいます。どれくらいの力で走ればいいかもわからない。1周と言われれば全力で、10周と言われればジョギング のようにゆっくりと走るでしょう。あと半分、あと何周と考えながら、ゴールに向けてがんばることができます。

いつ終わるのかわからないときは、不安になります。そして、不安は際限がありません。考えれば考えるほど不安は大きくなりますから、そこから逃げるために考えないようにしようと思い、思考を停止してしまいます。これは自分を守るための術です。

思考停止になると、誰かの大きな声に何も考えずに従う人もいれば、貝になって閉じこもる人もいます。その不安をとってあげるためには、正しい知識と対応の仕方を伝えなければなりません。

新型コロナウイルスでの一連の不安はまだ全て払拭されたわけではありません。新型コロナウイルスについて正しい知識を学ぶことも必要ですし、生活のリズムを整えることも、お家の中で役割を与えることも、お休みの日を作ることも必要です。

病院の中でも、ただだらだらと過ごしてしまうと意欲もなくなっていきます。退院できる日がわかってくると、子どもたちは途端に元気になります。ただ、医療としては間違ったことは伝えられないので明確な日時は伝えられないときもあります。そんなときには、「この数値がこうなったら退院できるよ」「そのためにはこういうことをするといいよ」と伝えてもらいます。

そのとき、子どもたちの「がまん」が「がんばり」に変わっていくのです。何か目標があると際限のない「がまん」から、目標を持った「がんばり」に変わっていきます。お医者さんには、ある程度の目標を子どもにも伝えてあげてほしいとお願いしています。そのほうが子どももがんばることができる。

いつもは注射や点滴を嫌がっていた子でも、「この注射、あと3回なんだ」「この点滴、あと2回で終わり」というときには、嫌がらずに受けるようになります。
その子が治療に向かうエネルギーになるのです。

子どもが不安を抱えているとき、大人ができることはなんでしょうか。私は、その子にとっての安全地帯を作り、その子がその不安から抜け出すための見通しを一緒に立てることだと思っています。そうすれば子どもたちも、自分の中から「がんばり」を発揮することができるようになっていきます。


【 出版社から 】

こちらの記事は書籍化されています!

画像1

「ストレス時代のこどもの学び」 副島賢和 著

本体価格1,500円+税/ISBN 978-4-907537-30-2

↓ ご購入はこちらから ↓

https://www.amazon.co.jp/dp/4907537301/


よろしくお願い致します!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?