久しぶりの学校生活、がんばりやさんは大丈夫? 遊びの向こうに見える子どものこころ
副島賢和(そえじま・まさかず)昭和大学大学院准教授、昭和大学附属病院内学級担当。学校心理士スーパーバイザー。公立小学校教諭として25年間勤務。2006年より8年間、昭和大学病院内さいかち学級担任。2014年より現職。ホスピタル・クラウンでもあり、2009年、ドラマ『赤鼻のセンセイ』のモチーフにもなった。2011年、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』出演。
疲れは3の倍数でやってくる
心の傷つきについて語るとき、よく言われるのは、3日後、3週間後、3か月後に波が来るということです。学校が始まることを楽しみにしていた子どもたちも、しばらくは元気に見えても、これまでとは全く違う学校生活でとても気を張っていると思います。学校に行くのは心配だなと思いながら、その子なりにとても頑張っている子もいるはずです。
「学校どうだった?」「なにか心配なことある?」「先生に伝えたほうがいいことある?」
「お勉強、わからないことあるかな?」「お友達はどう?」
時々、このような問いかけを、生活の中でさりげなく聞いてあげてほしいと思います。たたみかけるようにではなく、問い詰めるようにでもなく、何かの会話の途中にポンッと挟んでみてください。
思春期の子どもたちは、知らん顔をして「うっせえよ」と言うかもしれません。そんなときには、「じゃあよかった。心配なときはいつでも言ってね」「応援しているからね」と言ってあげてください。あなたの感情は受け取ったからね。いつでも助けてって言っていいんだよということを伝え続けてほしいのです。
「学校に行くのがちょっと心配」と言う子には、何かお守りがあるといいと思います。お守りそのものでもいいし、お守り代わりのハンカチや、授業で使う鉛筆や消しゴムにおまじないをかけてあげてもいいですね。その子が不安になったとき、ギュッと握れるものがいい。「大丈夫、大丈夫」と小さな声で言えば大丈夫になるよなど、おまじないの言葉を教えてあげてもいいと思います。そういうものがあると、子どもたちもきっと心強いはずです。
子どもから訴えてくることがなくても、子どもはしんどいとき体に変化が出ます。特に、頑張り屋さんは気をつけて見てあげてくほしいのです。
子どもを見るポイントは、感情(こころ)、思考(あたま)、行動(からだ)の三つです。疲れていると表情がなくなっていたり(感情が動かなくなる)、ぼーっと過ごしていたり(思考することをやめてしまう)、やる気がなくなってゴロゴロしたり(行動することがおっくうになる)します。
何か気になることがあれば、「ちょっと疲れてない?」とやさしく声をかけてあげてください。
先生はどうして笑わないの?
学校では、子どもたちも先生もみんなマスクをしています。中にはフェイスシールドをつけている学校もあるようです。その上、あまり大きな声も出せない状況です。友達と大声で笑ったり、ワイワイとおしゃべりもできないのではないかと思います。
このような状態では、お互いに感情表現が伝わりづらいということも私たちは念頭に入れておかなければなりません。
入院中のある女の子が、院内学級のある先生にこんなことを言ったことがありました。
「先生はどうして笑わないの?」
その先生は笑っていない訳ではありませんでした。笑顔の素敵な先生です。でもその女の子には、「この先生は笑わない」と見えていたのです。
以前から、院内学級では必要があればマスクをつけて授業をすることもありました。その先生はそのとき必要があってマスクをしていました。
私たち教師は、「口元は笑っても目は笑っていない」と言われることがあります。教師は子どもたちを見るとき、安全を確保したり、評価をしたりするために、一人一人をしっかりと見ることを求められます。ある心理士さんは、「みるのは教師の仕事。きくのが心理士の仕事」と教えてくださいました。目が笑っていないように見えてしまうのは当然かもしれません。
普段はマスクをしていないので、口元が笑っていれば笑顔に見えます。しかし、マスクで口元を隠しているとどうでしょうか。口元でいくら笑っていても、相手には目元だけしか見えません。先生に限らず、マスクをしながら人と接するとき、特に子どもたちに接するときは、どうすれば口元を隠しても、相手に笑顔が伝わるかを練習することも必要だと思います。
笑顔になるとき、どんな表情になっているかを意識したことはありますか。鏡の前で、マスクをしたり手を当てたりして、口元を隠して笑ってみるとよくわかると思います。
「コロナごっこ」がはじまったら
子どもたち一人ひとりが、安全・安心をしっかりと感じながら、日々を送ることができていれば、「困っている子がいたら助ける」ことができる学級になっていきます。
悲しみや不安などに向き合える力がつくと、「自分は自分のままでいい」「生まれてきてよかった」そう思えることができ、困難に向き合うことができるようになります。先生たちは、それぞれの現場で、そうしたことを繰り返し子どもたちに伝えてきたはずです。
そのような学級では、休校が解除された後も新型コロナウイルスによる差別的な言動は出てこないと思います。しかし、今回は、新年度になり新しいクラスや新しい学年になったばかりで、あまり友達とも知り合うことができていない状況です。
被害者意識や、劣等感・孤独感などを抱えている子が多くなると、新型コロナウイルスに対しても必要以上に恐れを抱くことがあります。すると、少しでも関連するものは排除しようという態度が現れてしまうかもしれません。
東日本大震災の後には「津波ごっこ」をして遊ぶ子どもたちもいました。今回は「コロナごっこ」をする子どもたちも出てくるでしょう。
遊びは対処法を見つけるためのもので、どうすればこの大変な状況から逃げられるか、どうすれば治るのかなどを、遊びの中で見つけていく、自分なりに受け入れていく過程でもあります。遊びの良いところは最終的に自分がコントロールできるところです。
ごっこ遊びでは、実際に津波に飲まれるわけでもなく、コロナになるわけでもありません。注射を打つふりをして、打ったら治るという遊びを通して不安を取り除いていることもあるのです。そんなときには、まず遊びを見守ってあげてください。
ただ、時折、その延長で誰かを傷つける言動が激しくなることもあります。大きな不安を受け止めきれず、不安を取り去ろうとしてそうした方向へと動く子どもたちが出てくるかもしれません。
もし、学校や家庭でそういう傾向が現れてきたときには、「そんなことを言うんじゃない」と力で押さえ込むのではなく、まずはその不安を受け止めてあげてください。
「わからないものって、怖いよね」
「自分や家族が病気になったら嫌だなって思うよね」などと声をかけ、その子の感情はしっかりと受け止めます。
そして、それから、「その願いを相手を傷つける方法で表現するのは違うよね」ときちんと伝えてあげてください。つまり、「あなたの感情は受容するけど、その行動は許容しない」という姿勢を貫くことです。まず、その子の抱える不安を受け止めてから、正しい知識を伝えてください。
そして、何よりも大事なことは、その子が被害者意識や劣等感、孤独感などを持たないようにするにはどうすればいいかを、学校の先生や家庭など、大人たちが力を合わせて考えていくことだと思います。
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