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休校が解除され学校が再開したとき   子どもたちの心配はどんなこと?

副島賢和(そえじま・まさかず)昭和大学大学院准教授、昭和大学附属病院内学級担当。学校心理士スーパーバイザー。公立小学校教諭として25年間勤務。2006年より8年間、昭和大学病院内さいかち学級担任。2014年より現職。ホスピタル・クラウンでもあり、2009年、ドラマ『赤鼻のセンセイ』のモチーフにもなった。2011年、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』出演。

学習の遅れよりもまず心配なこと

6月から、全国の小中学校の休校が解除されました。しばらくは人数を減らして午前と午後に分けての分散登校や、登校日を分けるなどしている学校もあるでしょう。

今、学校生活は、いつもの長期休暇明けとは全く違う状況です。学校の先生も保護者のみなさんも、そして子どもたちも、とても緊張しています。以前のように休み時間に思い切り走り回ったり、友達とワイワイおしゃべりしたり、美味しい給食を楽しみにしたりできるところは少ないのではないかと思います。

登校しているのは短時間のはずなのに、いつも以上にぐったりと疲れて帰ってくる。子どもたちはきっと、毎日とても気を張っています。

オンライン授業があった学校では、すべての子どもたちがつながることができていたでしょうか。オンライン授業を取り入れた学校でも、設備などの事情やご家庭の方針でインターネットにつなげない家庭があったかもしれません。もしそうだとしたら、学校の先生方は、先生やお友達とオンラインでやりとりできていた子どもたちとそうでない子どもたちをどのようにつなげていくかにも細やかな配慮が必要です。

休校中、子どもたちの家庭はさまざまな状況に置かれていました。今もそうです。子どもたちの学校が休みだからといってすべての家庭で親が在宅というわけではありませんでした。
親が仕事に行くのを心配しながら家で留守番をしていた子どもたちもいます。お父さんやお母さんがずっと同じ空間で過ごすことで過保護、過干渉になってしまった家庭もあるかもしれません。これを機会に、いい関係を作り直すことができた親子もあるでしょう。収入が激減してしまい、不安に包まれている家庭もあるかもしれない。

こうした異なる状況で過ごした子どもたちが学校に集ったとき、どんなことが起こるのでしょうか。子どもたちが学校などで何か問題を起こした時にも、「お家でしんどかったのかなあ」「我慢して過ごしていたのかなあ」と、その背景を考えながら先生方が受け止めてくださるといいなと願います。

これはコロナの時期だけに必要なことではありません。これまでも一人一人家庭の事情は異なりました。学校の先生は、そうした状況を変えることはできないからこそ、一人一人の背景も考えながらその子に関わる必要があります。

このことは今、学習の遅れや学力の低下を心配する以上に大切なことだと思います。分散登校の間はいつもの半分の人数です。先生方が子どもたち一人一人の様子を丁寧に感じ取るチャンスになるのではないかと思っています。


学校の役割って何だろう

学校の役割とは何でしょうか。今、そのことが問われていると思います。ただ定められた範囲の学習を進め、効率よく問題を解く力を高めることだけが目的の場所であれば、学校に子どもたちが集まる意味はあるのかなと疑問に思います。それなら、むしろオンライン教育のほうが性に合っている子どもたちもいます。解説の上手な先生の動画を探せば、自分で勉強ができる子はどんどん進めていくことができるでしょう。

私は、学校は、効率よく問題を解く力を高めるためだけの場所ではないと思っています。答えのわからない大きな問いを友達や先生と一緒に悩みながら考え、人と関わるって心地いいよねということを伝える場所でもあると思うのです。

家庭でもし心配なことがある場合には、積極的に先生に伝えてほしい。担任の先生じゃなくてもいいのです。学校の中に、その子が頼れる味方を探してください。何かがあった時に、頼れる場所。図書室の先生でも、校長先生でも、隣のクラスの先生でも保健室の先生でもいいのです。

何かが起こってからでは聞き出すのはちょっと難しいのですが、普段の生活のなかで何気なく子どもに聞いてみると教えてくれます。散歩をしながら、食事をしながら、同じ方向を見てさりげなく聞いてみてください。
「困った時に相談できる先生とか、学校にいる?」
子どもから先生の名前が出てこないときには、こちらから聞いてみます。
「〇〇先生、素敵だなって思うんだけどどう?」
「スクールカウンセラーの先生、どんな感じ?」
子どもたちは素直ですから、「あの先生好き」「あの人合わない」「あの先生、結構いいね」と本音を答えてくれるでしょう。

その先生に家庭や子どもの心配ごとを伝えておけば、何かあったときにも、その背景を考慮しながら子どもに関わってくれるはずです。学校の中で頼れる場所があると安心です。心配なことをわかってくれる人がいるというのは、心強いものです。


学校に通い始めるときに大切なこと

私は、院内学級の子どもたちの退院前には3つのことを大切にしています。院内学級のほとんどの子どもたちは、退院後、入院前に通っていた学校に帰っていきます。

<退院する子どもたちのために>
1 受け入れ先の学校でその子が安心感を持てるようにする。
本人の心配をできるだけ減らし、安心できるように準備をします。担任の先生と打ち合わせをして、入院している時からその子の書道や絵などの作品も教室に飾ってもらったり、グループや係活動などの組分けにも入れておいてもらいます。その子の居場所をきちんと確保しておくということです。
2 本人が復帰した後の見通しを持てるようにする。
自分の病気はこれからどうなるのか。体育はできるのか。疲れたときはどうすればいいのか。1年後はどうなるのか。これからの大体の見通しを持てるように、私から伝えられることは伝え、病気については医師から本人に説明してもらいます。
3 入院や病気になったことがプラスになる日が来ると伝える。
退院時には、ほとんどの子どもたちは入院したことや病気になったことに納得なんてできません。それでも、いつの日かこれがプラスになる日が来ると信じて関わっています。入院も嫌なことばかりではなかったという種を植えます。「またね」「一人じゃないよ」「ずっとあなたのことを応援しているよ」と伝えます。困った時に、いつでもここは相談していい場所だと伝えます。

今、休校を終えて学校に戻った子どもたちにもこうした配慮が必要です。子どもたちは手放しに喜んで楽しく学校に通える状況ではありません。子どもたちは感染の不安を抱え、緊張しながら学校に通っています。退院していく子どもたちの気持ちと重なる部分が多いと思うのです。

<休校が解除された子どもたちのために>
1 安心して学校に通えるようにする。
まずは、子どもたちにこんなふうに聞いてあげてほしいと思います。
「学校に行くときに、何か心配なことはある?」
「学校はじまったけど、何か困ったこととか、嫌なこと、あるかな?」
心配なことがあれば、学校の先生にそのことを伝えておきます。
先生は、「あなたに会いたかったよ」とぜひ伝えてあげてほしいと思います。
2 これからの見通しを持てるようにする。
学校の先生がこれからのことについてお話ししたりプリントを配ったりしているかもしれません。分からないことがあれば、学校に確認してみるといいでしょう。
「これから学習はこうなっていくよ。こうなったらまたお休みになるかもしれないよ。休み時間は今はまだ遊べないけど、こうなったら遊べるようになるよ。困ったときには、〇〇先生に相談するといいよ」と伝えます。
3 休校期間はあなたにとってマイナスではない。プラスにすることができると伝える。
「家族でいっぱい遊んで楽しかったね」
「自分の好きなこと、見つけられたよね」
「お休みの間にこういうことができるようになったね」
「こういうことを考えることができるようになったよね」
休校だったからこそできた楽しかったことや、その子がつけた力を認めて伝えます。

そして、「心配なことがあればいつでも相談していい」「助けてって言っていいんだよ」と伝えてあげてください。
「学校で大変なことがあっても、お家に帰ったら大丈夫だよ」
「あなたのことがとっても大切。困ったらいつでも相談してね」

お家は学校になる必要はありませんし、保護者は先生になる必要はありません。
子どもたちが帰ってきて、ホッとできる場所であればいいなと願っています。


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