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「学校で思い切り遊べない!」 子どものエネルギーとストレス

 副島賢和(そえじま・まさかず)昭和大学大学院准教授、昭和大学附属病院内学級担当。学校心理士スーパーバイザー。公立小学校教諭として25年間勤務。2006年より8年間、昭和大学病院内さいかち学級担任。2014年より現職。ホスピタル・クラウンでもあり、2009年、ドラマ『赤鼻のセンセイ』のモチーフにもなった。2011年、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』出演。

いつも以上にふざけてしまう子どもたち

この時期、家にいるときにいつも以上にふざけている子、大騒ぎをしている子もいるかもしれません。以前はこんなことはなかったのに驚いているとあるお母さんからご相談がありました。「こんな時期に、何やってるの!」とつい言ってしまうかもしれませんが、実はその子の行動は、ストレスを解消する方法の一つなのではないかと思います。

本当なら、学校で休み時間に友達と思い切り遊び、大きな声を出して楽しく過ごしていた子も、今は学校でも行動に制限がかかっています。安心してストレスを発散できる場所が家族の前しかなくなってしまい、そうして解消しているのかもしれません。

病院でも、お父さんやお母さんが亡くなったとき、走り回ってしまう小さな子もいます。「何も分からずにはしゃいでいるのだろう」と大人たちから受け止められることが多いのですが、その子はきっと、わかっていないのではなく、わかると大変だから無意識に受け入れないようにしているのです。脳は自分を守ろうとして、行動を起こします。

いつも以上にふざけているときや、大はしゃぎしているときには、その子が抱えきれないストレスがあることが考えられます。ぜひそうしたことにも思いを寄せながら、その子がどんなことにストレスを抱えているのかを一緒に考えてあげてほしいと思います。

学校の目標でもよく言われることなのですが、過ごし方の目標などは、「廊下を走ってはいけません」などと禁止するのではなく、「廊下は歩こう」と、ポジティブな言葉で表現してあげてほしい。禁止する言葉だけを並べるのではなく、ぜひポジティブな言葉で子どもたちに伝えてあげてほしいと思います。

マンションなどで家では静かに過ごさなければならない環境もあるでしょうから、そんな時は、「家で騒いじゃダメ」ではなく、「おうちで静かに楽しく過ごすためにはどうしたらいいかな?」「静かに遊ぶ遊びって何があるかな?」「お外でいっぱい走ろうか」と声をかけてあげられるといいですね。そのようにほんの少し意識を変えるだけで、やさしい言葉をかけてあげやすくなります。


「一人ぼっちになってしまうかもしれない」という不安

なかには、断片的なテレビなどの情報から、とても怖がっている子もいます。子どもは、「自分が一人ぼっちになってしまうかもしれない」という不安を抱えているかもしれないのですが、それをうまく言語化できません。

「お仕事行かないで」「買い物行っちゃいやだ」などと怒ったり泣いたりしながら訴えてくることもあります。親としては、「そんなことを言われても、行かないわけにはいかないんだから、わがまま言わないで」と困ってしまうことでしょう。

その子は、買い物に行ったり、電車に乗って仕事に出かけたりするお父さんやお母さんのことをとても心配しているのです。そのような言動が見えたときには、「行かないとダメだから」ではなく、「お母さんきちんと手を洗っているから大丈夫よ」「会社でも、こんなふうにみんな注意しているから大丈夫だよ」など、説明をしてあげることが必要です。

何よりも伝えておきたい最も大事なことは、「あなたを一人ぼっちにはしない」「そのために一生懸命やっているから大丈夫」ということです。

「あなたのことがとても大事だと思っているよ。あなたもお母さんやお父さんのこととても大事に思って心配してくれているのね」と、その子が感じていることを言語化して話してあげてください。子どもたちの言動の根っこにある不安を探っていくことが、今とても必要なことです。


その子が持っているエネルギーは?

病気を抱える子どもたちは、エネルギーが小さくなっているので、ベッドの上で1日を過ごしたり、小さな院内学級で学んだりすることでこと足りるのですが、いつも校庭を走り回り、大きな声で友達と騒いでいた元気いっぱいの子どもたちには、学校の教室の中でじっとしていることや家の中で静かに過ごすことはとても窮屈なことです。

退院した子が久しぶりに院内の教室に遊びにくることがあるのですが、みんなきまってこう言います。
「あれ、この教室こんなにちっちゃかったっけ?」
それは、その子が元気になって、エネルギーが元に戻ったからそう見えるのです。

校庭やサッカーコートなど、広いところで対応できるエネルギーの子が、家で静かに過ごすのは本当に大変なことだと思います。

子どもたちは今、ギュッと小さくなっています。充満しているエネルギーをギュッと押し込めている子、ギュッと押し込めることがつらくてそれを感じないようにしている子、そのことに慣れてしまって無気力になっている子など、さまざまな子どもたちがいると思います。

「学び」と「遊び」は、どちらも子どもたちの成長や発達に欠かせない要素です。「学び」は紙の上だけで完結するものではありません。「遊び」のなかで「学び」が生かされることもあり、「遊び」が「学び」に結びつくこともあります。「遊び」自体が子どもにとっての「学び」であるとも考えられます。

休校が解除されて学校が始まっても、学校で思い切り遊んでくるわけではありません。家庭でも、学校の延長で宿題や課題をこなす時間だけを考えるのではなく、一緒に遊んだり、外で思い切り体を動かしてストレスを発散したりする時間を作ってあげることを心がけていただければと思います。


見て見ぬふりをしてきたことが見えてくる

さまざまなことが制限されている状況の中では、今まで見て見ぬふりをしてきたことがそうできなくなっていきます。入院してきた子どもたちの周りでも、家族の形が見えてきます。

みんなでその子のことを中心に考えて自然に集まる家族、お医者さんや周りのスタッフの支えによってまとまる家族、医療者に攻撃をすることで結束する家族、いろいろな家族の形があります。

今もそういうことが起こっているのだと思います。大きな視点で見ると、地域や国などのまとまりでもそういうことが起こっているのがニュースなどから聞こえてきます。

つらいこと、つらい時期をしのぐための方法はいろいろありますが、できることなら周りの人たちを巻き込みながら、みんなで助け合って、支え合っていける家族が増えるといいなと思います。

みんなで支え合っていかないと、どうにもならないこともたくさんあります。みんなが当事者であり、みんなが助け合える力を持っているはずです。家族だけで抱え込まずに、外に助けを求めてほしい。これを機に、学校もそんな場所になっていくことを願っています。


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