【朗読と書評】風亜の読書記録♯1
『トルストイの子どもたち』
セルゲイ・トルストイ著
青木明子訳
朗読箇所は224〜225頁。上のリンクから聞けます。
レフ・トルストイの長女タチヤーナ(ターニャ)が彼女の弟ミハイル(ミーシャ)が亡くなった知らせを受け取り、その返事に義妹リーナへ送った手紙からの抜粋です。
著者セルゲイはそのミハイルの息子。
トルストイという名と彼による名著『戦争と平和』のタイトルは聞いたことがあれど、私は彼の作品はそれを含めてもまだ手に取ったことがない。彼についてはロシアの文豪であることくらいしか知らなかった。それでも村の図書館でこの本を手に取ってみたのは、彼がクリスチャンであることを朧げながら記憶していたからである。それと、若干ドストエフスキーと混同していたからだ。だってそっちもロシアだし・・・(言い訳になっていない)!
館内で5章の『マーシャ伯母さん』についてはじめから半ばまで立ち読みしたのち、その日借りて行くことを決めた。私はあまり立ち読みをしないタチだ。というか、人の目線を感じるのが嫌すぎてほとんどできないのだ。それでこの時は、自分にしては長い時間立ち読みしてしまったなと感じた。それだけ魅力的な内容であることは間違いなかったし、全編読んでみても満足感はたっぷりあった。
本のタイトルにあるように、これはトルストイの子どもたち(子どものうちに亡くなった子たちを除く)の人生や人柄、父との関係についてを孫/甥セルゲイが見たもの、聞いたもの、感じたものを綴った家族史、エッセイ集である。
順風満帆なトルストイ夫婦の関係と家族生活が営まれていた時代、父と母の軋轢がジワジワと大きくなっていった時代、妻とすれ違ったまま亡くなったトルストイ、その後の母ソフィヤ・・・それぞれに向き合ってきた子どもたちの様子が、濃厚に、親密に、そして柔らかく、暖かな愛情でもって語られている。
その作品の一つさえ読んだことのない私が、この本から見出したトルストイ象。
それはあまりに熱心で、ときどき行き過ぎて、とても深くて、暖かい。それらの形容が彼の「愛情」にかかる様だ。第一に彼は神を愛していた。第二に家族と人々を愛していた。
神への愛、その現れである信仰のゆえに、偉大な作家トルストイは彼自身と子どもたちの成育環境であった貴族生活から離れていこうとした。しかし妻や子どもたちーーことさら息子たちーーはトルストイのその変化について行きかねた。それが家庭内の不和となっていったことは彼らにとってはもちろん、現代を生きるクリスチャンとしての私にとっても悲しみとして感じられた。ともすれば、彼らトルストイ一家は素晴らしいクリスチャン家庭の在り方の模範となっただろう。現実でも十分に素晴らしい家族であったのだが、それ以上にもなれただろうという意味である。
トルストイの子どもたちは、そのような父とのすれ違いが確かにあったにせよ、それぞれが父を敬愛し続けたことには変わらない。特に娘たちは父のお気に入りで、よく彼の教えに従い、誠実であろうとした。実際それを実現したのだから凄い。
トルストイは子どもたちが結婚することに消極的だった。父に従い通そうとする娘たちにとっての一番の壁は、父のその考え方だったようだ。それでも、結婚した後も父の信仰と生活の在り方をよく支え、受け継いでいった様子が伺える。
本書で言及はされていないが、おそらく結婚はなるべく避けるべしという考え方は聖書から来ているのだろう。使徒パウロは言う。
これまで恋愛に興味がなかった、というか関わることはないだろうとあえて考えないようにしていた私だが、ここ1、2年は少しずつ関心が出てきた。そしてこの本を読みながら、理想の男女関係、結婚の在り方、家庭の治め方について思いを馳せることも少なくなかった。すると、この人生で関わることはない、と断定するよりもまず、どう関わっていきたいのかという理想や目標を定めておくことも大事なのかもしれないと思えてきた。
まあ私の場合、結婚について考えるよりも先に、どんな仕事につくべきか、何をやりたいのかを考えることが当然優先ではあるけれど・・・。
そして仕事と言う点について、トルストイの子どもたちも苦労したと見える。父の信念と強い意向によって著作料に関する収入や遺産がなかったことや、飢饉、戦争といった時代の波に揉まれていったことも一因だろう。
父から受け継いだ文筆家の才、音楽の才、あるいは農民や貧民を助けつつ行われた農地経営、また父や祖国ロシアに関する講話といったことが子どもたちの仕事の一端になっていったようだ。
生まれ持って出てきたものや、教育によって培われた子どもたちの品格、人生の端々に父親の影を感じずにはおられない。そして愛情やユーモア、情熱をたっぷり持ち合わせた8人の人生から得られる感動といったらない!読み応え抜群な一冊である。
2022/12/28
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