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震災の空に浮かぶ月

ここ北の地におこった震災の後に思う。

今なお被災し苦労されている方がいらっしゃる。亡くなられた方も、その悲しみに打ちひしがれている方もいる。

大きな傷跡を残した。

それでも人々はこの地で暮らしを続け、いつもの日常が戻りつつある。

そして今夜も、見上げれば星たちがぽつりぽつりと輝き、震災前と変わらぬ美しい月が静かに浮かぶ。古より変わることのない空がそこにはある。

ふと思うのだ。
遥か太古の時代、この広大な北の大地は、うっそうと茂る森や、滔々と流れる河、そして人の立ち入りなど決して許さぬ険しい山々に覆われていたのだと。そしてそこにも今夜、見上げる空と変わらぬ月が出ていたのだろう。

昨日ニュースやワイドショーで、盛んにある話題が取り上げられていた。ZOZOTOWNの前澤さんが月へ行くという。
今こうして見上げている月へ…

震災があった地の空に浮かぶ月。
まだ見上げる人間が存在すらしない、そんな時代から変わらず光続けてきた月。
そして前澤さんがこれから向かうという月。

それらは同じ月だ。

そうそれは、大災害に見舞われようと、時代が移り変わろうと、たとえおれが死んでしまっても、大切なもの全てが消え失せても、その美しさを損なうことはないのだ。近い将来、人間が再び彼の地に降り立つ時が来たとしても。
この大都市からはけっして見えては来ない、いや、人の営みからは決して見えることの出来ない真実の光を湛えているのだろう。

人間にとって月は、それぞれの心で見上げる月でしかない。
それでも、その一人ひとりの想いを月は優しく受け止めてくれる。

今夜、古の人々を想う。
被災した人たちを少しだけ想う。
前澤さんのことも頭をかすめた。
友人を想い、なにより家族を想う。

十年後、おれはどんな想いでこの月を見上げているのだろう。
それがどんな想いであれ、月の美しさが変わることはない。
そしてその時も、やはり月は優しくこの世に無二の白光を湛え、おれの想いを受けとめていることだろう。

もう一度、被災した人たちに想いを寄せてみる。悲しみの後、幸多いことを祈り。

#エッセイ #コラム #震災 #月

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