冬から春へ。嫌いから好きへ。
若い頃、春という季節が嫌いだった。
小学生の時には既にそうだったように思う。
新年度を迎えると、周りの皆が大なり小なり成長して行く。
学年が一つ上がると、あいつも、こいつも、あいつでさえも、なんだか少し大人になったように思えた。
そして、そんな成長も感じられぬ自分だけが、一人寂しく皆の背中を眺め、ぽつりと佇んでいるのだ。
春は始まりの季節。
何も始められずにるいるおれには、春は不安で面倒な季節でしかなかった。
それがいつしか、不思議と春が好きになっている。
これはいったい何故か。
つらつらと思い返してみるのだが、これといったきっかけは思いつかない。
ただ、三寒四温と冬から春へと移り変わって行く毎日だけを、ゆっくりと感じながら過ごせている。
昔の様な疎外感や焦燥感は、今は感じることはない。
あの日あの時、何に焦っていたのだろう。
今となっては、曖昧でぼんやりとした思いでしかない。
何となく言葉にしようと試みると、それなりに説明できるような気もする。
それでも、どんなに言葉を尽くしてみたところで、「それなんだよ」と言える上手い表現は見つけられずにいる。
ただ、「今」の気持ちなら少しは説明できそうだ。
多分、人生の中で、強いられる新しい事など無いことを知ったのだ。
新しい事は、自らがつくり出すものなのだと。
新たな事にチャレンジするもよし。
現状を維持するもよし。
それは自分自身で決められる。
自分のペースで成長して行けばいいのだと理解した。
自分の人生、周りと比べると事など何もない。
ふと、しばらく新しい事にもチャレンジしていないことに思い至る。
そろそろ頃合かもしれないな。
新しい仕事。
新しい趣味。
それとて、無理せず自分のペースで少しずつで構わないのだ。
ただ、だからこそ、新しい事への勇気や意欲は持ち続けたいと思う。
疲れたら少し休む。転んでもまた立ち上がる。
膝の泥を払い、「よし、また始めるか」てな感じで。
だって、新しい事を始める楽しさもおかげさまで知ったから。
久々に、青い空にぽっかりと雲が流れている。
一筋の風が、ぴゅーと吹いて行った。
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