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韓国のジャズを聴く~ Sound of Korean Jazz Music ~

最近、アジアの音楽が面白いなーと感じています。
きっかけは2020年にChudahye Chagis 「Underneath The Dangsan Tree Tonight」や、Kim Oki 「For My Angel」を聴いて衝撃を受けたことで、それ以来意識してチェックするようになったのですが、USやUKのアーティストに比べると情報が少なく、新しいアーティストを知る機会が少ないと感じていました。
そんな中、柳楽光隆さんのBIGYUKIのインタビュー記事を読み、そこで紹介されていた韓国のジャズ・ミュージシャンの音楽を聴いてみたらめちゃくちゃかっこよかったので、韓国のジャズに的を絞って色々聴いてみました。
特に詳しいわけではありませんが、あまりまとまった紹介もされていないと思うので、楽器別におすすめのミュージシャン・作品を紹介したいと思います。
記事の最後には、紹介順に好きな曲をまとめたSpotifyのプレイリストもあるので、Spotifyユーザーの方は聴きながら眺めていただけると嬉しいです。

おすすめアルバムジャケット一覧

ボーカル

Jimin Lee (イ・ジミン)

韓国・ソウルを拠点に活動する女性ヴォーカリスト・作曲家・教育者。2013年にノーステキサス大学でジャズ研究(ヴォーカルパフォーマンス)の修士を取得。韓国近代文学の前衛詩人である李箱(イ・サン)の言葉をジャズと組み合わせた2019年の2枚目のソロアルバム「Strange Flower」(マスタリングはNate Wood!)が素晴らしいです。

Song Yi Jeon (ソン・イ・ジョン)

韓国出身、ニューヨークで活動中にブルーノートからデビューした後、現在はスイスに移住して活動する女性ボーカリスト、作・編曲家。変拍子を巧みに操り、複雑だけどスッキリとした難しさを感じさせないハーモニーと、器楽的で美しいメロディーを歌うボーカルが印象的な楽曲が多いです。2022年リリースのブラジルのギタリストVinícius Gomesとのデュオのアルバム「Home」もとてもよかったです。

Hee Kyung Na (ナ・ヒギョン)

韓国とブラジルを行き来しながら、ブラジル音楽に取り組む女性ボサノヴァ&ジャズ・ボーカリスト。アルバムにはブラジルのジャズ・ミュージシャンや、ボサノヴァのパイオニアであるロベルト・メネスカルやイヴァン・リンスとも共演しています。

サックス

Kim Oki (キム・オキ)

ビートメイカーとコラボしたり、ヒップホップやソウルなどがクロスオーバーした幅広い楽曲が魅力。アンビエント&スピリチュアルなサックスの音が素晴らしいです。折坂悠太氏がツイッターで「Kim Okiは천재.」=「Kim Okiは天才」と投稿していました。「Spirit Advance Unit」で2020年のKorean Music AwardsでBest Jazz & Crossover Albumを受賞。どのアルバムもいいですが、個人的なおすすめは2019年の「Spirit Advance Unit」です。韓国の伝統楽器を使った新しい音楽の製作に取り組んでいるPark JihaのEP「Communion」でのコラボも素晴らしいです。

Sunjae Lee (イ・スンジェ)

ボストン出身の韓国系アメリカ人で、現在は韓国へ拠点を移して自然療法士の仕事をしながら音楽活動をしているサックス奏者。2020年に韓国のアンダーグラウンドな即興演奏シーンに焦点を当てた音楽レーベル「Mung Music Label」を立ち上げ、主に4トラックのカセットMTR TASCAM 424を使用して録音した作品を精力的にリリースしています(アートワークも担当)。即興性の高いフリーなプレイが魅力で、Soojin Suh、Junyoung Song、Jimin Lee、Eunyoung Kimなどとプレイしています。

ベース

Jaeshin Park (パク・ジェシン)

冒頭に記載した柳楽さんによるBIGYUKIのインタビューで知った韓国のベーシストで、韓国のジャズについて調べるきっかけになった人です。結局あまり情報は見つけられなかったですが、リーダー作である2022年のアルバム「Deep Mind」がハイブリッドで現代的なジャズでめちゃくちゃかっこいいです。ドラム=Jongkuk Kim、鍵盤=Youngwoo Lee、ギター=Junho Song & Sangjun Ahnが参加しています。

Hwansu Kang (カン・ファンス)

ニューヨーク拠点で活動するベーシスト・作曲家。2021年にリリースした、ピアノ=Guy Moskovich、ドラム= Jongkuk Kimとのピアノトリオによるリーダー作「We Go Forward」が凄くよかったです。Hwansu Kangと同様にニューヨークで活動するJongkuk Kimとの繋がりが強く、台湾の女性R&Bシンガー9m88の「Beyond Mediocrity」、Mongaif の「Archive of Loving」に参加するなど、ジャズをベースにしながらヒップホップやR&Bなど他のジャンルの音楽にも関わっているようです。

Lee Won sool (イ・ウォンスル)

ジャズとクラシックを融合した初のリーダー作「Point Of Contact」が2013年のKorean Music AwardsでBest Jazz Albumを受賞。2014年の2作目「In To The Time」は、1作目とは異なるシネマティックな雰囲気のアルバムで、どちらも個性的でよかったです。そのほか、韓国伝統音楽とジャズとエレクトロニックミュージックを融合した「SINNOI」、抒情的かつ実験的なアプローチと現代的なリズムがかっこいいピアノ・トリオ「Trio Closer」でも活動しています。

Minki Cho (チョ・ミンキ)

韓国のフリージャズ系の作品でよく名前をみるベーシスト・作曲家。2017年のリーダー作「INVISIBLE」には、EunYoung Kim、Junyoung Song、SunJae Leeなどが参加しており、自由でエネルギッシュな即興演奏と作曲・構成のバランスが素晴らしく、プレイヤーとしてだけでなく作曲家としての力量を感じられるアルバムで素晴らしいです。ミックスとマスタリングはEivind Opsvikが担当しています。

Hoo Kim (キム・ヨンフ)

複雑な楽曲をすっきりとしたきれいなハーモニーで聴かせる作曲センスのあるベーシスト、作・編曲家。アメリカ留学中にファーストアルバムをリリースした後、韓国に帰国。その後も積極的に活動し、2022年にはビッグバンド作品も発表しており、2ndアルバム収録の「Dancing on the floor」をビックバンドにアレンジした曲も収録されていて、聴き比べるのも面白いです。

Lee SungChan (イ・ソンチャン)

ソウル芸術大学校でジャズベースを学び、2011年にデビュー。とにかくベースがめちゃくちゃうまい。リーダー作はテクニカル&グルーヴィーな現代的ジャズ・フュージョンで、Chris Dave以降のヒップホップを血肉化したドラム=Choi ByungJunの演奏がかっこいいです。ジャズをベースにヒップホップやファンクなどの様々なグルーヴ・ミュージックを演奏するトリオ=Duck Streetでもベースを担当しています。

ギター

Choi Sung Ho (チェ・サンホ)

即興音楽のプロジェクトであるChoi Sung Ho 's Singularity名義でのセカンドアルバム 「When The Wind Blows」が2017年のKorean Music Awards でBest Jazz & Crossover Album を受賞。毎回コンセプトを定めた即興性の高いアルバムを制作していて、フリーだけどどこか親しみやすさもあり、歪んだ音や浮遊感のある音など、ギターの音がかっこいいです。ポストロックのファンにも響くものがあると思います。

Young Gu Kim (キム・ヨング)

アムステルダム音楽院で学士号、ニューヨーク・シティ・カレッジで修士号を取得。John Abercrombie、John Patitucci、Steve Cardenas、Ben Monder、Jesse van Ruller、Connie Crothersから指導を受け、2014年にニューヨークの若手ミュージシャンで構成されるカルテットを率いて「Small Community」でデビュー。トリオやクインテットでのリーダー作をリリースしており、最新作はクインテット編成による2021年リリースの「ENTITY」で、クリーンで透明感のあるギターによる心地よいメロディと、静かで熱いインタープレイが魅力のコンテンポラリーなジャズでよかったです。

Myungwon Kim (キム・ミョンウォン)

ニュースクール音楽大学で学び、ニューヨーク大学大学院を卒業。ニューヨークに滞在していた時の韓国の仲間たちと、2016年に初のリーダー作「Reminiscence」をリリース。モダンジャズ的な響きに少し捻りを効かせた美しいメロディやハーモニー、お互いの音をしっかりと聴いて楽曲の魅力に丁寧に向き合った演奏が心地良いです。ピアニストとしてKyumin Shimが参加しています。

Taesung Yu (ユ・テソン)

カナダへの留学後、2014年にリーダー作をリリース。その後は当時のメンバー等とライブ活動を継続的に行ってはいたものの録音作品はなかったのですが、2022年にエレクトリックなビートとアンビエントな音響が魅力の「Silent Pictures」と、室内楽的ジャズの「Michelangelo」の2枚をリリース。今後の活動がどうなっていくのか楽しみです。

ピアノ・鍵盤

Youngwoo Lee (イ・ヨンウ)

韓国とアムステルダムを拠点に活動。Jeashin Park「Deep Mind」に参加していた知ったのですが、アコースティック・ピアノだけでなくエレクトリックな音も積極的に使った現代的なサウンドと演奏が凄くかっこいいです。Youngwoo Leeと同様に、韓国とアムステルダムで活動しているドラマーのSun-Mi Hongとの繋がりもあり、お互いのリーダー作に参加しています。Eunmaru Yi & Youngwoo Lee「Orbit」、JH Lee「Past Emotion」などでのプレイも素晴らしく、今後も参加作品はチェックしていきます。

Eunyoung Kim (キム・ウニョン)

幼少の頃からクラシックバイオリンとピアノを学び、18歳の時からジャズピアノに取り組む。2007年からバークリー音楽大学、ニューイングランド音楽院で学んだ後、2013年に韓国に帰国。クラシックとジャズを融合したような即興演奏が素晴らしく、2020年のピアノソロ「Earworm」、同年のSanjae Lee、Dayeon Seokとのトリオ作「Pulse Theory」がとてもよかったです。Minki Cho「INVISIBLE」やJimin Lee「Strange Flower」にも参加しています。

Youngjae Kim (キム・ヨンジェ)

ニュースクール大学で学んだ後、現在はソウルを拠点に活動するピアニスト、作曲家、教育者。ベース=Hwansu Kangとドラム=Jongkuk Kim とのトリオでリリースした2018年のリーダー作「Movement」がとても良かったです。2020年にはHwansu Kangと一緒にMongaifのアルバムにも参加しています。

Yoonhwa Choi  (チェ・ユナ)

バークリー音楽大学でジャズピアノと作曲を学び、マンハッタン音楽大学で修士課程を修了。これまでにコンセプトの異なる3枚のリーダー作をリリースしており、詩人の金永郎(キム・ヨンラン)の詩をテーマとした2枚目「Young-Rang Poem Music」(Jimin Leeがボーカルで参加)、即興性の高いピアノトリオの3作目「Reboot」が特に好きです。

Chin Sooyoung (ジン・スヨン)

Kim Okiのバンドでピアニストとして知りました。ソロアルバムは音色で語るようなECMにも通じるアンビエントなジャズでよかったです。「100回の即興ライブと10枚の即興アルバムの発売」を結成当初から公言しているという、ロック、ジャズ、ワールドミュージックなどがミックスされた脱ジャンル・即興インストバンド「TEHO」のメンバーでもあり、このバンドの活動はとても気になっています。

Kyumin Shim (シム・ギュミン)

バークリー音楽大学で学び、ニューイングランド音楽院を卒業。初のリーダー作「IN MY ROOM」では、ほとんどの楽器を自ら演奏し、ジャズをベースにシンセと生楽器の演奏を組み合わせた、現代的なアプローチも行っています。ミックス&マスタリングはEivind Opsvik、ギターでMyungwon Kimが参加しています。

Park Gene Young (パク・ジニョン)

3歳からクラシックピアノを学び、ジャズ愛好家の父親の影響でジャズを始め、2010年に19歳でトリオによるリーダー作「Graceful River」をリリース。その後、バークリー音楽大学にて学び、ニューヨークで活動後に帰国。近年の作品はサブスクでは見つけられなかったのですが、「Graceful River」が凄くよかったです。クラシックとジャズが融合した、しっかりとした構築性と静かで熱い豊かな情感を感じる楽曲・演奏で、ピアノの美しい音色や質感の表現が素晴らしいです。

ドラム

Soojin Suh (ソ・スジン)

韓国ソウル在住の女性ドラマー・作曲家。2008年にプロとしてのキャリアをスタート。韓国伝統音楽とジャズを融合したアンビエントな音像が素晴らしい「BAUM SAE」や、2019年のKorean Music Awards でBest Jazz & Crossover Album を受賞した「 Near East Quartet」(ECMからのリリース)のメンバーとしても活動しています。演奏における瞬発力とセンスが抜群で、リズムのバリエーションが豊富でかっこいいです。

Sun-Mi Hong (ホン・ソンミ)

韓国の仁川生まれ、現在はアムステルダムを拠点に活動する女性ドラマー。様々な表現のベースとなるしっかりとした構成がありつつ、即興的なアイデアを活かすのに十分なスペースを持たせた自由度の高い楽曲が魅力で、表現力豊かでキレの良いリズムがかっこいい。2020年のセカンドアルバム「A Self​-​Strewn Portrait」には、彼女と同じく韓国とアムステルダムで活躍するピアニストYoungwoo Leeが参加しています。2022年の最新作は興味深い作品を多数リリースしているイギリスのジャズレーベルEdition Recordsよりリリースしており、今後の活躍も楽しみです。

Junyoung Song (ソン・ジュニョン)

バークレー音楽大学、ニューイングランド音楽院で学び、現在は大学で指導も行う教育者でもあるドラマー。Minki Cho、Jimin Lee、Sunjae Lee、Kim Young Gu、Kyumin Shimなどの作品に参加しており、韓国のジャズを調べる中で気になったアルバムの多くに関わっていました。ドラムソロのアルバムもリリースしています。

JH Lee (イ・ジョンヒョン)

2022年にファーストアルバム「Past Emotion」をリリースした若手ドラマー。Youngwoo Leeが鍵盤、Sang jun Ahnがギターで参加。ボーカル曲もあり、ジャズをベースとして、現代的なセンスとポップなフィーリングのあるアルバムでよかったです。

Jongkuk Kim (キム・ジョングク)

BIGYUKIのインタビューでJK Kimとして名前が出ていて知ったドラマー。Julius Rodriguesの「Let Sound Tell All」、Simon Moullierのリーダー作などで耳にしていたのですが、今回初めてちゃんと認識しました。今のところリーダー作はないようですが、 Song Yi Jeon「Movement Of Lives」、Jaeshin Park「Deep Mind」、Hwansu Kang「We Go Forward」、Minji Kim「Every Moment」など、どのアルバムでもヤバいドラムを叩いており、今後も参加作品は積極的にチェックしたいです。

その他・ラージ・アンサンブル

Jihye Lee (イ・ジヘ)

韓国出身、現在はニューヨークを拠点とするジャズ作曲家。韓国では当初シンガーソングライターとして活動しており、2011年にバークリー音楽大学でジャズ作曲を専攻してラージアンサンブルに関心を持ち、在学中にデューク・エリントン賞を受賞。2015年にはニューヨークに移住し、マンハッタン音楽院で修士号を取得。2作目の「Daring Mind」で2022年Korean Music AwardsのBest Jazz & Crossover Albumを受賞しており、現代のラージ・アンサンブル作曲家として注目しています。

Jungsu Choi (チェ・ジョンス)

ウィーン音楽院とロンドンのキングストン大学でジャズ作曲、映画音楽、電子音響音楽を学び、ヨーロッパで活動。2011年に「JUNGSU CHOI New Jazz Orchestra in London」としてデビューアルバムをリリースしたのち、韓国のミュージシャンを集めて「Jungsu Choi Tiny Orkester」を結成。コンテンポラリーで実験的なラージ・アンサンブル・ジャズでかっこいいです。

Spotifyプレイリスト

最後に、紹介したアルバムから好きな曲をまとめたプレイリストを置いておきます。POPOやCubedなど、ここでは紹介しなかった作品もありますので、よかったら聴いてみてください。


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