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シリーズ:コロナと激動の消費者心理【8月調査①】個人消費は回復するか?10万円給付の効果は?

企画・製作 株式会社矢野経済研究所 未来企画室

このシリーズは、コロナで揺れ動く日本の消費者の心理がどのように変化していくのかを把握するために実施している、2020年度中計4回のwebアンケート定点観測調査から、その動向について気になるトピックをシリーズでお届けしていきます。

当シリーズ投稿の趣旨出典元の消費者調査につきましては、初回の記事でご紹介しておりますのでご覧ください。<シリーズ説明>


【8月調査①】個人消費は回復するか?10万円給付の効果は?

今回は2回目の調査となる8月調査(7-9月期調査)から気になるトピックを拾っていきます。

コロナ対策の特別定額給付金として、国民一人当たり10万円が5月末から8月ごろにかけて支給され、一般的にはそのうちの2割から3割程度が消費に回るだろうといわれています。

今回はその影響によって個人消費は回復するのか、また給付金の効果はどのように表れ、そして十分だったのかを、前回の6月調査と最新の8月調査をもとに考えていきたいと思います。

下記は8月調査の実施要項です。

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8月調査の結果、家計の状況はまさかの続落

前回の6月調査時点では、緊急事態宣言が明けてコロナは収束し、これから自粛をする必要がなくなるという期待感から、外食や飲み会、国内旅行やイベントなどの外出を伴う消費の実施が大きく拡大するとの見通しでした。

しかし、6月末以降に感染が再拡大しているとの報道の影響を受けてか、8月調査の結果は、4-6月期と比較してなお、家計の状況が悪化する結果となってしまいました。

下図は、幸福感と家計状況について、前の四半期(3か月前)と比較して、今の四半期に、改善したと回答した人の割合から、悪化したと回答した人の割合を引いたもので、左側の列FY2020-1Qが4-6月期、右側の列FY2020-2Qが7-9月期(8月調査)の値を示しています。

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家計の状況は4-6月期に▲29.6となっていたものが、7-9月期に▲24.6となっており若干改善していることが確認できます。しかし、依然としてマイナス圏深くを推移しており、これは4-6月期と比較してさらに家計の状況が悪化した人の方が、改善した人よりもかなり多いことを示しています。

5月末から8月にかけて、特別定額給付金として一人当たり10万円が支給されました。5人家族では1世帯当たり50万円ですので、それなりの大きさのインパクトがあったものと考えられます。しかし、家計の状況としては下げ止まりがみられるものの続落という結果となっています。

給付金は家電と旅行に流れたか?旅行は続伸

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上図は、その四半期(3か月)にそれぞれの項目の買い物をした人の割合を示したもので、左から順に4-6月期(FY2020-1Q)、7-9月期(FY2020-2Q)の実測値と、10-12月期(FY2020-3Q)の見通しの値です。

4-6月期から7-9月期にかけて家電の購入割合が増加し、10-12月期には購入の予定がある人の割合が減少する見通しとなっています。

国内旅行が続伸する見通しとなっていることと比較して、一般に年末商戦で購入が大きく増加するとみられる10-12月期に家電の購入が減少する見通しとなっていることから、今回の家電購入は一過性の要因が強いと考えられます。

その要因として考えられるのは、在宅時間が長くなったことによる家電需要の高まりと、やはり10万円給付でしょう。10万円給付は、早い地域では第一回調査(4-6月期6月実施)の時点で既に振込されているため、効果が第一回調査から現れていると考えると、10-12月期の見通しが4-6月期を下回っていることも納得できます。

また、国内旅行の大幅な伸びも、感染の再拡大が懸念されていた中でも大きく伸びており、外出欲の解放に給付金が一役買ったと考えられます。

日常消費は依然続落か

家電購入や、国内旅行に給付金が向かう中で、日常消費は回復したのでしょうか。

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上図は、日常消費の各項目の消費額について、前の四半期(3か月前)と比較して、今の四半期に、金額が増加(した・しそう)と回答した人の割合から、減少(した・しそう)と回答した人の割合を引いたもので、左から順に4-6月期(FY2020-1Q)、7-9月期(FY2020-2Q)の実測値と、10-12月期(FY2020-3Q)の見通しの値です。

食料品と日用品といった、いわゆる巣ごもり需要となる品目のみプラス圏で推移しており、これは消費金額が増加傾向にあることを示しています。食料品消費は依然として増加傾向にある一方、日用品は7-9月期にはほとんど0の値となっており、増加の傾向が頭打ちになったことを示しています。また、10-12月期にはさらに減少に転じる見込みとなっています。

それ以外の品目についてはマイナス圏で推移しており、減少傾向にあります。それぞれ外出自粛が緩まり、徐々に回復しているものの、6月末からの感染再拡大の報道によって緊張感が高まったのか、10-12月期の見通しでは回復が鈍化する結果となりました。

貯蓄に回す金額に関しても一貫して減少傾向を維持しています。第一回調査(4-6月期)からすでに10万円給付の効果が表れていると考えると、日常消費の回復傾向にそれなりに寄与していたものの、その効果は切れてしまい、日常消費の回復傾向の鈍化に至ったと考えられます。

10万円給付は効果があったのか?追加給付は必要?

以上のことを総合して考えると、10万円給付は、余裕のある家庭では家電や国内旅行の消費に回され、余裕のない家庭では日常消費の不足分もしくは貯蓄に補填され、消費額の減少を食い止める効果が、一定の程度であったと考えられます。

しかし、感染状況も相まって、8月調査時点での将来(10-12月期)の消費の見通しは、これまでの回復傾向が鈍化するという結果となり、10万円給付の効果が切れてしまったように感じられます。

したがって、今後は感染状況に応じて、削がれた個人消費を補う必要があると認められた場合は、同じような給付をすることによって同様の効果が一定程度あるといえるでしょう。

その一方で、感染拡大の報道は9月末現在でも継続していますが、それにもかかわらず、9月の連休は近年まれに見る大渋滞が各地で発生するなど、これまで抑圧されてきた外出欲が発散されている光景が見受けられます。

個人消費の回復は現在、感染状況と消費欲のせめぎあいにその命運が託されていますが、消費欲を加速させるGo to トラベル政策が一定程度機能していることを鑑みるに、10万円給付も強力な推進剤になり得るでしょう。

政策サイドには、効果的なタイミングを見計らったアクセルとブレーキの使い分けが期待されます。

出典:Withコロナ社会の消費者心理の変化を捉える定点調査2020

※本シリーズの投稿内容はすべて執筆者の個人的な見解を示すものであり、執筆者が所属する団体等を代表する意見ではありません。また、投稿内容はいかなる投資を勧誘もしくは誘引するものではなく、また、一切の投資の助言あるいはその代替をするものではなく、また、資格を要する助言を行うものではありません。

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