〈15.水の神さま〉
今日のカフェクラブは宗教というテーマで話し合った。
僕は語り出した。
「日本にはかつて蛇(へび)を信じる信仰があったんだよ。昔は蛇は神さまだと考えられていた。
例えば川は蛇行するから大蛇だと思われていてね、そして大きな蛇はドラゴン。川は水を与えてくれるから水の神さまでもある。そして水道の出口のことは蛇口って言うね」
「そういえばそうね」
アンさんは呟く。
「蛇の神が水の神だと信じられるのは川が大蛇のようだという考えからじゃないか?」
アーサーくんはそう推理した。
モディさんは言った。
「蛇の神様といえばインドにもいます。ナーガという白い蛇の神様です」
ペルー人のメルーカさんが発言した。
「かつて中米に存在したアステカ文明にはケツァルコアトルという蛇の神さまがいます。マヤ文明ではククルカンとも言います」
僕は言った。
「世界中に蛇を神様を信じる教えがあるね。そしてそれに共通するのは水の神様であり女神でもあるということ」
キングくんも発言した。
「アフリカにはマミワタという水の神様が信じられてるよ。マミワタの語源はマミーウォーターっていう英語から来てるんだぜ」
「じゃあやっぱり女神なんだ」
まほろちゃんは納得した。僕は説明を続けた。
「世界中で蛇が信じられてるけど蛇の信仰は古くてね、まだ宗教が世界を支配する前から信じられてるんだよ」
「そんな昔から世界中で似たような信仰があるなんて不思議だね」
アンさんは不思議がった。
「僕の住んでる佐賀には与止日女(よどひめ)神社がある。それも川の神だよ。与止日女神社は7世紀の日本建国に役立ったと言われる。大陸に近い佐賀は大陸の文化を学ぶのにちょうど良くて、そこで日本建国の文明が始まったんだ。
でも何で今ある場所に神社が作られたかと考えると明らかに川を見守るのにちょうどいいからとしか考えられない。与止日女神社は佐賀の市街地を流れる川の川上にあるからね。
地球上で宗教が栄えて、宗教によって蛇が邪悪と見なされた後、蛇の代わりに川を見守る教えが必要だったんだね」
僕は佐賀の水路の地図をみんなに見せた。
「なるほど佐賀には縦横無尽に水路が走ってるのだね」
アーサーくんは感心した。
「佐賀ではその昔、市街地に水を通すため水路がたくさん作られた。飲み水の確保、川での釣り、防災、国防、農業用水、船で移動したり船で物流したりと様々な役割を果たした。水面の高低差を利用して水の流れを自在に操ったと言われている。
そしてその水路の水を自然の川に返す所が中島樋堰(なかしまひせき)だよ」
「中島樋堰?」
「そう。そしてその近くには中島神社もある。中島神社の近くは陸地の真ん中に水路で丸く囲まれた土地があってその中に村がある」
「へぇ、面白い。行ってみたい」
アンジュちゃんは面白がった。
「水路を作る土木工事はカッパが手伝ったと言われる。カッパっていうのは日本に住む妖怪で、人間に悪さするとも言われてるけど中にはいいカッパもいるよ。
カッパは川に住んで悪いカッパは人間を川に引きずり込むと言われてる恐ろしい妖怪なんだ。でもそんなカッパが偉い人の説得や村人の優しさに触れて改心して人間を見守る優しいカッパになったという逸話も残ってる。
そしてその後は人間が川で溺れないように土手を作ったり堤を作ったり堰を作り橋を架けたとも言われてる。」
「カッパって働き者なんだね」
アンジュちゃんは感心した。
「カッパの世界は男は力仕事、そして夜は奥さんに晩酌してもらう。女性は働くとすれば男性にお酒を注ぐような仕事をするというような世界なんだよ。相撲もカッパが遊んでたのが始まりとも言われてる」
「日本にそんな妖怪がいるって知らなかったわ」
ロリポップさんは驚いた。
「日本にはキツネを信じる信仰もあるらしいね」
アンさんは訪ねたので僕は答えた。
「お稲荷さんだね。お稲荷さんは日本の神社の代表で有名なのは京都の伏見稲荷神社だね」
「何でキツネが神様になったの?」
アンさんの質問に僕は答えた。
「その昔まだ宗教が盛んになる前の時代、人間は狩りの仕方をキツネに教えてもらってたんだよ。キツネは人間に懐くけど食べ物を自分で獲ろうとする。食べ物を獲ってる様子を人間に見せてくれるんだ。だから人間は見よう見まねで食べ物の獲り方を習うことができた。それで人間を養ってくれる食料生産の神さまとされたんだよ。
そしてやがて農業が盛んになった時、きつねは農業の神さまとみなされた。さらに時代が進んでいろんな職業の神さまとみなされるようになったんだ」
「日本でキツネを信じる宗教があるとは聞いていたがそういうことだったとは」
アーサーくんは感心した。
アンジュちゃんは言った。
「キツネはコンのつくものが好きなのよ。コーン、昆布、こんにゃく、レンコン、大根、根菜。あと大豆でできた味噌、醤油、納豆、豆腐、油揚げ、稲荷寿司」
「なるほど健康的なものばかりだ」
アーサーくんは笑顔で感心した。
「狐は忍者にも技を教えたと言われてる」
僕の言葉にアーサーくんはがこう言った。
「忍者の知識は修験道者が教えたと聞いているが」
「その修験道者に技を教えたのがキツネかもしれないんだ。佐賀の忍者には葉隠れの教えがある。人生の生き方を解いた教えだけど、葉隠れっていうのは葉っぱに隠れる忍者の技。そしてそれを教えたのはキツネかもしれない」
「忍者の技もキツネが元だったんだ」
アンさんは驚いた。
「それが肥前夢街道の忍者にも受け継がれてるんだね」
アンさんがそう言うと笑いが起きた。
「肥前夢街道の忍者は本当の忍者じゃなくて芸人だけど、忍者に知識を教えた修験道者は芸をしたと言われる」
僕は続けた。
「忍者が活躍した戦国時代は日本の歴史上最も木が少なかった時代と言われている。それ以前の時代はどんどん木を切っていて、江戸時代にはもっと木を増やそうという動きが生まれたから。でもそんな戦国時代に佐賀の忍者が葉っぱに隠れたということはそんな時代にも佐賀には木がたくさんあったという証拠だったんじゃないかな?」
最後にこうまとめた。
「外国人には京都のお寺などが人気で、京都のお寺は昔は日本の政治の中心だったけど、日本の政治の中心となる教えだけじゃなくてその周辺にある庶民的な教えを学ぶのもいいかもしれない」
つづく
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