〈32.まほろちゃん、グレンフォールズが気に入る〉

 僕たちはステファニー先生に案内されてグレンフォールズという町に車で遊びに行った。実はこの町は僕たちと深い関わりがある。僕たちのふるさと佐賀の姉妹都市だった。
「実は私もグレンフォールズの生まれなのよ。佐賀がグレンフォールズと姉妹都市だと知って佐賀に興味持って、それで佐賀で英会話教師になろうと思ったの」

 グレンフォールズはニューヨークの一部で、ニューヨークを流れるハドソン川を遡(さかのぼ)った川上にあった。
「へぇ、ここがグレンフォールズか。いいとこだね」
 僕は感想を漏らした。アメリカの古き良き時代を思わせるようなオシャレな建物があったり、綺麗に刈られた芝生が青々としていた。
 まほろちゃんも感想を言う。
「赤毛のアンの世界に来たみたいね」
「グレンフォールズには美術館とか教会が多いのよ。教会はいろんな宗派の教会が共存してるのよ」
 まほろちゃんは感動した。
「私たちが住む大和町に似てるわね。大和町もいろんな宗教の施設があるし、川上にある所も似てる」
 大和町は僕たちが住む佐賀の町だった。
「川辺にビーチみたいにくつろげる場所もあるわよ」
 ビーチに行ってみた。更衣室などが設置されていた。

 美術館の一つに入ってみた。美しい自然の景色が描かれた絵画が飾ってあった。
「綺麗な風景画ね」
 まほろちゃんは見入った。
「それはハドソンリバー派の絵画よ」
「ハドソンリバー派?」
 まほろちゃんは聞き返す。
「昔のアメリカ開拓前のニューヨークの風景よ」

 綺麗な雪山や野原の花やせせらぎが描かれていた。それだけでなく、ゴツゴツした岩や激しすぎる滝もリアルに描かれていた。
「ニューヨークが生まれる前のニューヨークね」
 まほろちゃんは感心して見ていた。
「風景画って窓みたいね」
 アンジュちゃんが感想をもらす。


 ステファニー先生は説明した。 

「ハドソンリバー派は名前の通りハドソン川の周辺の景色が描かれた絵画よ。アメリカ開拓初期の絵画で、アメリカ絵画の始まりなの。見る人をアメリカに住みたいと思わせて、入植のきっかけになってるの。アメリカ先住民が守ってきた自然を守ろうという動きにも繋がってるわ。セントラルパークやメトロポリタン美術館を作ろうっていう動きのきっかけにもなったしね」
「アメリカにとって大切な宝物なのね」
 まほろちゃんはそう言った。
「ハドソンリバー派はアメリカ開拓っていう大冒険の始まりだったのね」
 アンジュちゃんもハドソンリバー派が気に入ったみたいだった。まほろちゃんはこう言った。
「大和町も大陸からの文化の流入の入り口になってるしね」
 ステファニー先生は続けた。
「グレンフォールズもそうして出来た町よ。
 飾り立てたヨーロッパの絵画とは違ってそのまま見せても美しいのがアメリカの自然とその絵画だったのよ。当時のアメリカは未開の地。冒険して宝探しするの。宝は帰った後自分で作るのよ。」
 まほろちゃんは相槌を打つ。
「つまりその絵画が宝物だったわけね」
「ナイアガラの滝もニューヨークにあるでしょ。
 画家の信仰深さはいろいろだったけど、自然を神聖なものと見る傾向があったの。ニューヨーク開拓前の自然を今に伝える貴重な遺産よ。」

 中心街のカフェに入る。ステファニー先生の友だちがいた。ステファニー先生に僕たちのことを紹介してもらった。町の人に歓迎された。
「佐賀といえば姉妹都市じゃないか!」
「ようこそグレンフォールズへ」
 女主人も歓迎してくれた。僕が歌手だと言うと、歌って欲しいと言われた。僕は自分の持ち歌「川上峡慕情」と「どんぐり村で待ってるよ」を歌った。
 その2曲を歌い終わった後、僕は語った。
「今、ニューヨークが治安の悪化などで大変なことになってると聴きました。でも僕はニューヨークが大好きでニューヨークを守りたいんです。なので僕がニューヨークのために出来ることがあるなら力になります」
「ありがとう。一緒に協力しようね」
 僕はグレンフォールズの人と握手した。

つづく

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