〈  きつねの葉っぱのお金②〜MMT〜  〉

 昨日、ふうあさんが、国はお金を作れるという話をしたことについて、ホントにそうなのか知りたいと思った僕は、高校時代の恩師・石松先生に質問しに行った。石松先生は経済が専門の髪が長くて垂れ目で優しそうな先生だった。


「国がお金を作れるかって?

 作れるよ。お金は元々国が作ったものだからね。必要ならもっと作るよ。」

「そうか。お金って元々国が作ってたのね。」

 アンジュちゃんは納得した。まほろちゃんは質問した。

「じゃあ国は税金が足りないと思ったらお金を作れるんですね?」

「いや、税金が足りなくて作る場合もあるけど、普通は経済のバランスを考える。

 国全体で売買されるものの量が増えてお金が必要になった時に作る。」

「そうですよね。税金が足りないからといってそう簡単に作れませんよね。」

「必要以上に作りすぎたらお金の価値が下がってしまうんだよ。」


 石松先生は続けた。

「だけど最近はMMTといってお金を作っていいという考え方も出て来てるんだよ。」

「MMTですか?」

 僕は訊き返す。

「MMTって何の略だと思う?」

 石松先生の質問に僕たちは考え出した。

「もっと(M)モテ(M)たい(T)。」

 アンジュちゃんは答えた。

「違うなぁ。」

「もっと儲けたい。」

 まほろちゃんが答えた。

「近い。」

「マジムカつくたい。」

 僕が答えた。

「九州弁のギャルじゃねぇか。(笑)

 面白い答えだけど、正解はモダンマネー理論(セオリー)だよ。」

「モダンマネー理論(セオリー)ですか?」

「そう。」

「未来メルヘン理論(セオリー)でもいいんじゃないですか?」

「君にピッタリの答えだよ。」


 石松先生は笑顔で教えてくれた。

「モダンマネー理論(セオリー)っていうのは社会全体のためになるならお金を作っていいという理論だ。

 例えばベーシックインカムといって国が税金を使って国民に平等にお金を分け与えようという政策の時、税源になるのがお金を作ることだ。貧しい人がいなくなるための支援策だよ。

 今まではお金持ちや労働者から税金を取って、そのお金を貧しい人に与えようという政策があったけど、それだと不公平に感じる人が多い。だからいっそのこと全員に分ければいいという訳。

 それから農業や福祉など社会を支えるために必要な仕事だけど儲けが少ないような産業には補助金を与えることもある。社会全体で仕事が行われるために必要なら、税金を使った方が返って豊かになると考えるんだ。

 また、ベーシックインカムとは違う理由で国民にお金を分けるのがヘリコプターマネーの考え方。」

「ヘリコプターマネー?」

 僕は初耳だった。

「これはヘリコプターで空からお金をばら撒いて国民に取ってもらうというアイデアだ。」

「え~っ!? ホントにそんなことするの?」

 アンジュちゃんは驚いた。

「もちろんホントにそうする訳じゃない。でもそんな風に国民にお金をばら撒いた方が国の経済はよくなるんじゃないかという意見なんだ。

 ヘリコプターマネーというのは国民にお金を分け与える理由が景気をよくするためなんだよ。国民にお金を使ってもらって企業に稼いでもらおうということだ。お金を作ることによって物価や株価を上げると景気がよくなる場合もある。」


 僕はまた質問した。

「石松先生自身はお金を作る政策に賛成ですか?それとも反対ですか?」

 すると石松先生は急に、さっきまでとは違った形相を見せた。

「駄目に決まっとろうもん!

 お金は自分で働いて稼ぐのが男たい。全く最近の若者は楽して儲けることばかり考えて。オレの若い頃はみんな必死で勉強して競争に勝つために頑張ったとたい。」

 急に様子が変わった先生を見てアンジュちゃんとまほろちゃんは驚いた。

 僕は質問した。

「でも供給過剰で安売り競争が盛んだったらどうするんですか?」

「そういう時は人一倍頑張って売る努力しんしゃい。給料が人の半分でも人の倍はたらきんしゃい。苦労は買ってでもせよっていうやろが。若い時は寝る間も惜しんで働く。それが九州男児たい。」

「でも競争に勝つだけでなく田舎で家を相続したりも大事じゃないんですか?」

「それはすねかじりの発想たい。すねかじりと言い訳せずに働きんしゃい。」

 さっきまで経済を語ってた人とは思えない口ぶりだと思った。


「人という字はぁ、2人の人が支え合って成り立っとる。支えてもらうだけじゃ駄目たい。

 お金という字は「人には辛抱第一」と書くんだよ。お金というのは血と汗と涙の結晶なんだよ。

 怠けてひ弱になった最近の若者見てたら、マジムカつくたい!」

「分かりました。お金の説明はもう結構ですから。」


 僕たちはタジタジになって退散した。

「全くもう石頭先生なんだから。」

 つづく

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