見出し画像

国家の形成に向けた、専門分業と集落間の生存競争

 ヒトはコミュニケーションによりつながり、分業して助け合い仕事を効率化するコミュニティ=分業ネットワークの形成を生存戦略とする。仕事が複雑化するにつれて分業が進み、コミュニケーションの技術と文化を編みだし、周囲の統合と専門分業のリズムを刻みながら巨大化してゆく。

●家族社会の形成 :440万年前~

 無毛の顔と白目により表情をゆたかにして感情と情愛を交換するコミュニケーションにより、育児と採集を分業して助け合う家族を形成する。

●草原への進出と集団防衛 :370万年前~

 やがて草原に進出したヒトは、複数の家族が集まって10人~数十人の集団で行動することにより、肉食獣などの危険から身を守り、生存をおびやかす出来事や攻撃に対応する。危険を知らせ協調して動くための発声が、連携して集団を守るために使われる

●狩猟採集生活と部落 :180万年前~

 狩猟採集生活が発達すると、長距離を走って獲物を追い詰めるための役割分担、木の実や根を集め、子を育て、食料を加工するなどの分業が組織化され、25~60人程度の血縁の集落をつくるようになる。調停を行う長、火の保持、老人の知の口伝など男女の性別による水平分業と世代毎の垂直分業によって構造化した集団は、ヒトの多様性を生かす互助的な組織をつくる。集団の規模が大きくなるにつれて、より複雑な情報を交換するようになり、徐々に原始的な言葉と宗教が構築されていく

●農耕生活と集落間の生存競争 :1万年前~

 農耕生活によって土地と人口密度を広げ食料を保存・貯蔵するようになると、略奪者や利害・思想の異なる近隣の集落との争いが頻発するようになる。相互不信が不安を生み、安定を求める意識が約束事(法)を守らせる権力への従属を生む

 集落どうしの争いが、集落を単位とする競争となり、より巨大で強力なものが他を飲み込み、パワーの均衡がとれるまで争いが続く。組織内の運用、外に向けた軍事力をより整えた集落が生存競争で生き残る

【巨大集落を継続して運用するための条件】

 ・法と政治による組織運営
 ・宗教による意識の統一、侵略戦争の大義名分の共有
 ・効率的な分業
 ・戦闘能力の強化・維持
 ・食料生産プラットフォーム
  非食料生産者を養う大多数の食料生産者と税の仕組み

 大きな集落は周囲に征服戦争をしかけることによりさらに巨大化し、小規模な集落はより大きな集落にのみ込まれていく。さらに集団の規模が大きくなるにつれて、法を守らせるための首長、文字により組織を運用する書記などの官僚、征服戦争に宗教的な正当性を与える僧侶、征服・防衛をになう軍人、武器・防具などの製造技術を開発する加工職人などの食料生産に従事しない新たな職業に専門分業する。貯蔵・蓄積された食料を非生産者たちに再分配する仕組みは、やがて税収の仕組みをつくり、それを管理・支配するものに権力を与える。組織を管理する権力は、軍事力を操りさらに権力を増す。

 税収の予測や計算、予算の計画や執行のための「計数する言葉」、神の言葉を代弁する「神の言葉」、軍人に対する指令などの「戦の言葉」を記録・保存する「文字」が誕生する。職業の専門分業は、新たな「語彙」とコミュニケーション手段と文化をつくり、言葉の交換がさらなる職業の細分化を促進する

 部族社会は、他の部族社会を征服・併合して首長社会となり、やがて国家、帝国へと巨大化してゆく。

参考書籍:
[1]デヴィッド・クリスチャン, シンシア・ストークス, ブラウン、クレイグ・ベンジャミン(2016), "ビッグヒストリー --われわれはどこから来て、どこへ行くのか--", 長沼毅日本語版監修, 石井克弥,竹田純子, 中川泉訳, 明石書店
[2]ジャレド・ダイアモンド(2000), "銃・病原菌・鉄",倉骨彰訳 , 草思社
- Jared Diamond(1997), "GUNS, GERMS, AND STEEL: The Fates of Human Societies", W.W.Norton & Company.
[3]青柳正規(2009), "人類文明の黎明と暮れ方", 講談社
[4]トーマス・ホッブズ(1970), "リヴァイアサン", 水田洋訳, 岩波文庫
- Thmas Hobbes(1651), "Leviathan or the matter, forme and power of a common-wealth ecclesiasticall and civil"


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?