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フューチャーリテラシー :「可能性の未来」を読み解くために

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本マガジンでは、2022/12/12に出版した、『フューチャーリテラシー Futures Literacy :過去から未来へ,「可能性の未来」を読み解くために』についての情報を掲…
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#科学

書籍『フューチャーリテラシー 』関連情報リスト

Futures Literacy :過去から未来へ,「可能性の未来」を読み解くために 本マガジンは、2022年12月12日に出版を契機にリスタートいたしました。 書籍『フューチャーリテラシー Futures Literacy 過去から未来へ,「可能性の未来」を読み解くために』に関連する情報を掲載していきます。 【記事】1)『フューチャーリテラシー』出版記念トークイベント開催(12/20) 【読書のポイント】1月)宇宙・生命・脳の進化に見る、ネットワーク連鎖の入れ子構造

●脳誕生への道:微生物のコミュニティ

 38億年前、核のない単細胞の原核生物=細菌(古細菌、真正細菌)が誕生した。最も単純な生命である細菌はコロニーをつくり、細菌間のコミュニケーションにより協調して環境に適応しながら生存競争を生きのびたのだった。 ●細胞間での最初の情報交換=遺伝子交換 生命初のコミュニケーションは、細胞間での遺伝子の交換だ。細菌は、細胞分裂により増え続ける。細胞核が存在しないため、細菌間での遺伝子の交換が発生しやすく短期間に遺伝子が伝搬する。遺伝子の交換は、細菌の接合による交換だけでなく、死に

産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか【後編】: 情報ネットワーク・黒死病・イギリス

  領土の限界という【巨大な壁】の内側であがきながら、封建制度、重商主義を基盤とする交通ネットワークが商業ネットワークを、商業ネットワークが情報貨幣ネットワークを支え、初期の情報ネットワークが各ネットワークをつなぎ、相互作用しながら拡大して、産業革命を支える統合ネットワーク・プラットフォームを準備する。 ●【巨大な壁】の内側で広がる情報ネットワーク〇膨大な利益を生む錬金術、情報貨幣ネットワーク 異なる商品価値を仲介する必要から生み出された貨幣は、重商主義を経て交換を大規模化

産業革命はなぜ18世紀にイギリスで始まったのか:封建社会の壁と交通・経済のネットワーク

 上下水道や舗装道路など進んだ技術を利用していた古代ローマが産業革命を起こさず、18世紀のイギリスでなぜ産業革命という急激な変化が起こったのだろうか。  古代ローマや18世紀のヨーロッパ諸国においても奴隷などの安価な労働力を有する国々は、機械による自動化という発想すらなかった。一方、18世紀の世界の中心だったイギリスは「高賃金の労働者」と「低コストのエネルギー(石炭)」を保有していたため、蒸気機関などを使った機械による自動化のメリットがあり、後に産業革命と呼ばれる急激な発展

1万年前になぜ農耕民が誕生したのか

 小規模な狩猟採集民が農耕生活に移行し、人口を巨大化していったのは、気候変動などにより定住生活に誘われ、そこから抜け出せなくなった定住化と農耕の罠にはまったためだった。 ●気候変動と農耕コミュニティの形成 【豊かな狩猟採集民】 1万5000年前までのヒトは、0~20人程度の小集団で獲物を追って移動する狩猟採集により生活していた。最終氷期の1万4000年前頃、気候が湿潤になるにつれて、森がそばにあり海・河川・湖が近く天然の動植物が豊富な地域に定住し、周囲の獲物と植物を採集す

知的生産のための道具への道:記憶の拡張装置Memex(メメックス)

 1945年終戦の年、ENIAC完成の前年、計算に電子コンピュータを使うことすら確信のないとき、コンピュータを「思考のための道具」に導く衝撃的な論文が発表される。 ●われわれが思考するごとく(As We May Think)[1] 研究開発局の局長として、6千人以上のアメリカ人科学者の管理にあたっていたヴァネヴァー・ブッシュ(Vannevar Bush)は、大戦という局面において重点化すべき課題を的確に見極め、それを革新する技術・技術者を見いだす。一方で、重要な成果が大量の

【閑話】「メディアとヒトの誕生」つらつらと考える

 複雑系な話しをそのまま記述できて、そのまま理解してもらえればいいのだが、なかなかそうもいかない。n次元空間を2次元に投影する「ゲルニカ」さながらの日々。過去から現在に向けて直線で書いていると、方向性を見失うので、軸になる空間に碁の石を置くように書き進めている。  で、調査もしないで放置していた「コンピュータの誕生からアランケイ」あたりを書いてみようと思い立ち、となるとメディア論あたりも整理しなきゃいけなくて、だとすると「活版印刷」と「西洋思想」あたりか、いやいや「言葉」っ

正確な計算を行う機械:苦悩の歯車コンピュータ

 ヒトの営みが複雑化するに伴い、高速に、正しく演算することの需要 -- 数学・物理学・天文学などの科学演算、収穫を予測し、正しい航路を導き、商業を営む必要 --が、計算装置を生み出した。 歯車で稼働する苦難のオートマタ  農業によって巨大化した王国を統治する必要が、初期の計算装置を創らせる。納税を計算し、それを予測するための河川の測量、天体観測、また巨大建造物を建築するために小石や算木を並べ、計算結果を数表として使い、さらに算盤「アバカス(ソロバン)」が使われる。以降、長き

活版印刷と近代的思考法の確立

 言葉は発せられてしまえば後になにも残らず、書きとめることができなければ、その内容について研究することはできない、活版印刷の発明が「印刷書籍」をつくり近代的な思考法を確立してゆく。 活版印刷の発明と論理的な思考法 1445年、イギリスでの活版印刷の発明が、「書く言葉」の影響を爆走させる。「印刷された言葉」は「手書きされた言葉」より読みやすく、一つの「印刷書籍」が多くの読者に読まれるようになる。16世紀イギリス人男性の25%程度だった識字率が、18世紀に60%、そして19世紀

「書く言葉」で得たこと、失ったこと

 ヒトは「書く言葉」を発明したことにより、要素に分解して再構築する論理的な思考法=科学的な思考法を手に入れた。 ●「声の言葉」の語り手と聞き手の思考  「声の言葉」を操る語り手は、過去の常套句や慣用句、ことわざ、語りを用いるためにあらゆる知識を記憶する。さらに聴衆を惹きつけるアーティストとしての感性をもって、劇的な手法(抑揚・身振り・表情・言い回し)を効果的なタイミングで使い分ける技能を訓練し語りかける。  「声の言葉」の聞き手は、周囲の環境、聴衆の雰囲気、劇的な音響や視

「声の言葉」と「書く言葉」、哲学と数学の誕生

 「書く言葉」と「書」の登場は、劇の手法で言葉をあやつる「声の言葉」の記憶・思考法に大きな影響を与え論理的な思考法を徐々に生み出していくが、過渡期のそれは特殊な専門家があやつる異質なものでしかなかった。 ●声の言葉と劇的表現 「文字」が発明された後も「書記」たちは統治のための「言葉」を綴り、エリートに属さない民衆とそれに語りかけるものたちは、「声の言葉」を使っていた。「声の言葉」は、聴衆を対象とし、周囲の環境に影響を受け、発するとすぐに消えてしまい、保存することができない。

「文字」が古代社会の構造をつくった

 「文字」は、統治者が再分配する作物を管理するための記号として創られ、やがて「声の言葉」をアウトソースする「道具」となり、ヒトとヒトの距離と時間を越えてつなぎ伝達する「広域情報ネットワーク・プラットフォーム」に転じてゆく。 ●広域情報ネットワーク・プラットフォーム「文字」が生み出したもの 古代エジプトにおいて「文字」は王国運営の「道具」であると同時に、その上で様々なアプリケーションを動作させる広域情報ネットワーク・プラットフォームとして機能する[1]。 【新たな職業】  

「言葉」が変わると考え方も変わるということ:「コミュニケーション」とともに進化する「言葉」

 ヒトは、脳内の「イメージ」「感情」「意識」「経験」を「声の言葉」に乗せて相手とコミュニケーションをとりながら、「分業」とそれをつなぐ「言葉」を共進化させてゆく。 ●「言葉」を相手に伝えるということ 「言葉」は「思考」の「道具」であるとともに、他者・集団との「コミュニケーション」の「道具」でもある。  「言葉」は、「音声」に翻訳することにより脳内にある「イメージ」「感情」「意識」「経験」を外在化し、ヒトからヒトに伝えることができる。最初の「声の言葉」は「感情」の認識(意識

「言葉」が変わると考え方も変わるということ:考えるって、どういうこと?

 ヒトは、外界や体内からの入力、「言葉」と「イメージ」の「記憶」をもとに、「感情」で即応し、「言葉=論理」で判断して行動する。 ●情報統合のための「イメージ」 「五感(外界)」「内臓」「骨・筋肉」で受けた刺激を情報として「脳」に運び、「イメージ」として大脳皮質で統合・抽象化し、脳内で再構成して、最終的に抽象化して「言葉」として理解する。同時に発生する「イメージ」には、「感情」「意識」や「記憶」している「経験」から再構成されるもの、「イメージ」の相互作用により新たに構成される