上昇する街

温い水に腕をつかまれて
季節外れの蜉蝣は彩度の低い空をふらつく
冷たい朝の陽は翅を照らすが
かれはそれを知る由もなく
気まぐれな気流に踊らされる

あてどない

水溜りに薄く張られたガソリン
蜉蝣の翅は虹色で
かれは浮力をうしなう
落ちていく
かれらは
家家の屋根に降り積もる
コンクリートの路を舗装しなおす
かれらの身体よりも大きな翅が
幾重にも層を成し
街を覆い尽くしていく

街は天国へ昇る

あ あ 
宛て処ない
私たちの息の水本は
何処へ
ここには風すらない
足許が小気味良い音を立てて潰れるのが
(おそろしい)
穢れない新雪
覆われて
太陽から何かの眼が
眼が光で射竦めている
砂上の摩天楼は無音で崩れていく
身体には傷ひとつない
あれだけよごれていたのに
蜉蝣は変に折れ曲がって倒れている

果てることがなかった
果つことが 実ることが
芽が飽くまで枯れていった
約束と 命の形状は
僕が目をつむって
教会で一心にしていたような
ゆ 指を結ぶ行為に似ていて

蜉蝣の翅は
昼中降り続ける
そして

この世界にあって

どこかでなにかは犯される あの路地の奥で きっと不本意な僕が犯す そして翅は降っている 太陽が僕になる 太陽が私を射竦める そして翅は降っていた
涙もなく

翅を一枚手に取って
唾液で湿す
空間に浮かせて保存することはできず
せめて 額に貼る
翅は無邪気に降る
翅は定められて降る

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