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列車の席で眠り         (血流のなかに)
列車の席で目覚め        (変化が混じり始めたあたりの)
列車の席で眠り         (記憶がない)
列車の席で目覚め        (途方もなく込み入った道を)
あるともわからぬ反復を     (手を引かれて歩いていたことが)
てのひらに包み        (煙でできた花火を見せてくれたことが)
徐々に広がるやわらかな熱を   (現実味を失ってなつかしい)
ただ愛おしく          (君の長い巻き毛のことも)
夜の窓に映る自分の両孔に    (君の民族を示す浅黒い肌のことも)
光がまだ残っていることを確認する(ただ遠かった)
最愛の             (最愛の)

かたちあるものとして      (眠る子猫を)
約束を             (腹の中で飼っていた)
中指を縛る           (頃のこと と 今)

途切れることのない車内アナウンス(匂いが呼んでいる)
次の駅は            (狐に襲われた野うさぎ)
いつものように         (視野の狭窄 喘鳴)
見知ったホームの風が流れ込み  (祝福の新世界とやら)
やや斜めに           (まだ足りない)
崩れ落ちる体に         (血に飢える)
指令・指令・指令・指令・    (予感・予感・予感・予感・)
そのままではいけない      (かみさまのいうとおり)

常に行き先を把握せよ      (むしろわたしの方が)
乗り換えは最小限にせよ     (あなたの避けているような)
隣人の肩は避けすぎぬよう    (水晶の核のこと)
私に課せられるノルマ      (知っていたような気がして)

                (息継ぎをして)

この列車の先に         (吐こうとして止める)
珊瑚礁はありませんが      (泣きそうなほど必死になって)
あなたはいつまでもきっぷを   (ぬいぐるみを抱きしめる幼児)
手放さずにいられます      (一人でくだる銀杏並木の方が)
と車掌             (世界滅亡よりも苦しい)
私の顔をした巨大な車掌     (とは言えず)
偽物の車掌           (嘔吐物をもう一度味わう)

中途半端に開けられたパンドラの箱(抑圧からの解放)
余命より早く死んだ病人の男   (変圧 催眠 分子の回転)
列車に乗り合わせる不快な周波数 (首筋に噛み付いて噴き出す)
耳を塞ぐ耳を塞ぐ耳を塞ぐ耳を塞ぐ(生の欲深さ)

常に自問する          (酒は飲まない)
私の心臓は何色か        (薬も吸わない)
常に自問する         (檻に閉じ込めた猛獣の悲痛な唸り声が)
私の脳は何色か         (毎夜恐ろしく)
常に自問する          (無意味な鍵を投げ捨てて)
硝子の影と見つめ合う      (このまま逃げ出したい)
少し先の未来を見ているはずの (猛獣にとってこの檻が脆すぎることを)
他人の痛みを見ているはずの   (気づかせないために)
私より重いはずの燦然と白く   (そいつを撫でてやる毎晩)
覗き込んだ奥の         (涙を拭いてやっている)

列車よりも速く走る       (災害はいずれ起こる)
追いつかれぬよう速く走る   (いくら願おうと逃げ切れる保証はない)
速く走る速く走る速く走る    (毎晩猛獣を撫でてやる)
音も聞こえぬよう速く走って   (いつか祝福されてそのまま)
沈黙の星となる         (溶岩の津波となる)

ここでこれから起きること    (ここでわたしと会ったこと)
誰にも言わないで        (誰にも言わないで)


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