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運動のこと。 Vol.4 ~ 身体の協調性 ~

前回の「運動のこと。」では「筋肉」について掘り下げてお話してきました。

「筋肉」はただ鍛えて、強く、太くしてもそれだけでは日常的にうまく身体に適応させ、使ってあげることができません。

せっかく筋肉を鍛えたなら、身体のパフォーマンスを上げるためにうまく活用していくことが大切になります。

例えば腹筋やコアマッスル(体幹のインナー)を鍛えたとしても、トレーニングの方法とヒトが日常的に使う腹筋やコアの使い方は異なります。

これは「運動制御理論」に基づくものですが、コアは「入れる」のではなくて「入る」のが正しいのです。

この辺を理解していないトレーナーや理学療法士も多く、鍛え方によっては逆にコアスタビリティ(体幹機能)を抑制してしまうこともあるので注意が必要です。

運動の仕組み


運動は入力された感覚刺激によるニューロンの発火により筋が収縮して行われます。

その感覚刺激(電気信号)を統合して、運動に変換する脳に伝える役割を担っているのが脊髄の中枢パターン発生器(CPG)=神経振動子となります。

ヒトが運動を行う0.1秒前には先行随伴性姿勢制御調節が行われ、運動方向と逆側のコアの機能が高まるようになっています。

例えば右手を横に上げるときに、左手を左の脇腹の辺りにおいておくと、左手をあげる瞬間に左の腹筋の活動が高まるのを感じることができます。

このコアの機能により運動が可能となり、これらは無意識下で脳幹によるフィードフォーワード制御により制御されています。

筋線維タイプの違いと運動学習

コアにかかわる筋群(インナーマッスル)は遅く、持続的に収縮可能で疲労することがない筋線維タイプ(タイプⅠ=S線維)であり、従来型のコアトレ(強く、早く収縮させる)の発火パターンを学習することで、本来のコアの機能である筋発揮パターンが抑制されてしまうことがあります。

人の持続的な運動の遂行(歩行や立ち上がりなど)や姿勢制御・維持には速い筋収縮(アウターマッスルによる収縮)はほとんど必要とされておらず、従来型の負荷を用いて行う筋トレ間違った運動パターンの学習を促すことになってしまいます。

元メジャーリーガーのイチロー選手が筋トレをしなかったのは筋トレ(アウターマッスルを強くする)によって回転に必要なコアの機能が落ち、スイングスピードが逆に遅くなった体験があったからと語っており、道具を使うスポーツにおいて筋トレは逆にスピードを阻害しうる可能性があることには注意が必要です。

正しい運動は運動課題に対して適切なタイミングで適切な筋収縮パターンを無意識下で出すことであり、普通、これは発達段階(赤ちゃんが仰向けから寝返って、腹ばいになり、四つん這い、ハイハイを得て、高這い、立位、歩行を獲得していく段階)で学習されていきます。

しかしながら、怪我をしたり、誤ったトレーニングを続けたり、仕事で大きな負荷をかけたりすると、正常の姿勢制御パターンから逸脱して学習されてしまい、多くの場合こうしたことが背景となって腰痛などの障害を引き起こしてしまいます。

この場合セラピストやトレーナーの役割は感覚入力を促す(電気刺激を多くいれる)ことによって、発達段階に沿ったニューロンの適切な発火パターンを促すことにあります。

このような理論背景を基にしたトレーニング手法も多く開発されており、プロアスリートの世界でも広く行われています。

今回はその中から自分でもやりやすいものをいくつかピックアップしてご紹介していきたいと思います。

DNS(Dynamic Neuromuscular Stabilization:動的神経筋安定化)


先に述べたように、人間の神経系は姿勢や動作、歩行などの機能的動作をコントロールしています。

この“モーターコントロール(運動制御)”は人生の最初の1年、赤ちゃんが生まれてから立ち上がるまで、に多くの部分が確立されるため、運動系の機能不全とそれに関連する症状を評価し修復するためには、モーターコントロールの神経発達の側面を理解することが重要になります。

パベル・コラー博士は運動機能の修復と機能的動作の基本となる理論を体系化し、この新しい理論をDNS(Dynamic Neuromuscular Stabilization:動的神経筋安定化)と名付けトレーニングに応用しました。

詳しい理論はもう少しあるのですが、今回は割愛させていただき実際の動きについて見ていきたいと思います。

動画はyoutubeで見つけたものですが、基本は抑えられています。

どの動作においても注意すべき点は「腹圧」を加えることであり、赤ちゃんは腹筋の力で四肢をコントロールしているわけではなく、腹圧を高めることで四肢の分離運動を獲得していきます。

「腹圧」は息を吸ったときにお腹に空気を溜めることで高まります。

これは腹式呼吸のお腹の使い方になりますが、お腹の前面だけではなく、側面、背中と360°全体的に空気を入れるイメージで身体の内側から、お腹、背中を押すような感じです。

この状態を5割り程度維持しながら通常の呼吸をして、運動を実施します。
慣れてきたら立ち上がりやスクワットなどの動作も同様に腹圧をかけながら行ってみてください。

きっと身体の使い方の変化に気づけると思います。

Animal Flow

こちらのトレーニングは「動物」の動きを参考にして作られたトレーニングで、先程のDNSがヒトの発達であったのに対し、Animal Flowはヒトの進化をベースに動きを再獲得していくようなイメージになります。

こちらも体幹や肩甲骨の固定をベースに四肢の動きや柔軟性を高めていくことが目的とされ、筋力と同時に神経系の活動も高めることができるかと思います。

Animal Flowはあの神の子山本KIDさんも練習に取り入れてやっていました。試合前に独特の動きをしていたのを覚えている方もいるかもしれませんがあの動きがAnimal Flowです。

先に手首の動きを出してから運動を行っていますが、これはFascia(日本語では筋膜と訳されることが多い)の動きを良くする準備運動になります。

少しブレイクダンスのような動きが入り、トレーニング要素もありますが、筋力というよりはFasiaを介した全身のつながりと、協調性を意識して行っています。

四肢の固有受容器(感覚器)が刺激され、身体感覚と身体認知が高まります。

やってみるとわかりますが、筋力が上がったわけではないに動きを繰り返して四肢の認知機能が高まると身体を支えるたり、バランスをとったりするのが楽になります。

筋力がある人ほど筋に頼って身体を支えようとするため無駄な力が入りやすく、逆に身体の動きを阻害してしまいます。

動画では基本的な動きを行っていますが、これらを組み合わせながら自分なりのフローを作ることもできます。

どちらの運動も身体ひとつで行うことができる運動であり、特別なものを必要としません。

Youtubeでも動画をたくさん見つけることができると思うので、興味のある方は調べてみてください。

まとめ

筋肉は大きくしても、神経系に適応させなければパフォーマンスを向上させることができない。

正しい感覚の入力と筋出力が発揮されなければ動作時に必要な筋柔軟性や筋剛性が得られず、負荷や圧力を分散できずに、障害に繋がる可能性がある。

ヒトの身体の使い方は進化や発達の過程で獲得してきたものであり、それらをトレーニングに応用することで、正しい感覚入力による身体の使い方を学習することができる。

エレガントな所作がエレガントな身体を創る
ふつうびと(理学療法士)

最近、日常臨床で感じていることは、患者さんの生き方や考え方が身体に宿るということです。

生き方や考え方が頑固なヒトは身体も固く、柔軟なヒトは身体も柔らかいことが多いのです。

そして、姿勢が正しいヒトはやっぱり美しく、エレガントです。

エレガントさとは何か、エレガントとは優雅なことです。
私が思う最高の優雅さは、超高級スポーツカーに乗りながら、法定速度を守り、歩行車信号が点滅したら止まるぐらいの余裕と生き方で、私のように歩行者の信号が点滅したらアクセルを踏み、お昼ごはんを5分で食べ終えてしまい、さっさと昼寝をするような人種に優雅さは備わりません。

患者さんに運動を指導し、動いてもらうときはできるだけ優雅に動いてもらうようにしていていますが、滑らかにゆっくり動くためにはどの動きが必要かを感じ、よりエレガント動くための感覚を養ってもらうためでもあります。

いくらやっても優雅に動けず、ガキガキ、カクカクと油の切れたブリキ人形のような動きしかできない方は決まって動作性急でゆっくりと動くことができません。

これは、身体が常に緊張しており、緩めることができないために起こっています。

そういう人は大抵、遅い車がいたら舌打ちしてしまうような人で、常にイライラし、ストレスが溜まっている様子があります。
常に攻撃的だから身体も強張ってしまうのです。

特に研究をして有意差を出したわけではないので、ここで書いていることはただの私の戯言ですが、緊張(筋のこわばり)が脳の出力の結果であることを思えば、こうした経験論もあながち間違ってはいないように思います。

優雅な所作が優雅な身体を作り、優雅な身体が優雅な所作を作り出す。

日々の積み重ねが身体を作っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

#運動 #DNS #アニマルフロー #神経 #トレーニング  


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