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からだのこと。 ~ 痛みの本質について知る ~

痛みは日常ごくありふれた症状の一つで、私のいる整形外科では最も多い愁訴の一つです。

しかしながら「痛み」といってもそれは人によりかなりバリエーションがあり、正しく痛みを理解しなければ、治療は非常に難しいものとなります。

また、患者自分の痛みについて正しく理解していないことが多く、治療には双方の共通理解が必要になります。

そんな取り扱いの難しい「痛み」について今回はまとめていきたいと思います。

痛みの定義

1979年に発表されたIASP(国際疼痛学会)の定義では「組織の実質ないし潜在的な傷害と関連した、あるいはこのような傷害と関連して述べられる不快な感覚的・情動的体験」と定められており、痛みは神経が興奮して起こる感覚的な要素だけではなく、情動などの精神的な要素が関与することが示されています。

痛みの分類(持続期間)

まず痛みは持続期間によって急性痛と慢性痛の2つに分類されます。

急性痛(警告信号としての痛み):
侵害刺激による侵害受容器の興奮によってもたらされる痛みで、外傷や疾患に伴う症状の1つ、ぶつけて「痛い」というのは急性痛です。

急性痛は痛みの原因が存在し、主に炎症や損傷に伴う交感神経症状(自律神経の興奮)が存在しています。

急性痛は持続時間が短い痛みですが、中枢および末梢の過敏化(感作)により、可塑的変化が生じて、慢性痛に移行することもあります。

慢性痛(警告信号としての意味は少ない):
痛み自身が疾患となり、痛みの原因が存在していないことが多いのが特徴です。

また、不眠などの不定愁訴を合併することが多く消炎鎮痛剤(湿布や薬)が無効になることが多いです。

慢性痛は以前、3~6ヶ月を超えても継続する痛みのことを指していましたが、最近では期間に関係なく、再現性のない疼痛が持続し、脳の変化が起こっているものを慢性痛とされています。


痛みの分類(原因別)

次に痛みを原因別に分類します。

侵害受容性疼痛
局所炎症などによる侵害受容器刺激による痛みであり、繰り返される局所負荷(メカニカルストレス)や外傷、打撲、筋・筋膜炎、変形性関節症などによって生じる痛みのことを指します

神経障害性疼痛
末梢あるいは中枢神経系そのものの機能異常による病的な痛みを指します。
末梢神経はさらに、直接的な圧迫、絞扼による圧迫性神経障害と末梢神経の炎症や緊張によって生じる末梢神経感作に分類されます。

圧迫性神経根障害は圧迫されている神経の脊髄レベルに一致した感覚鈍麻やしびれ、下肢痛などの症状を有し、神経の伸張による痛みを伴いませんが、末梢神経感作は動作時における神経の伸張などで下肢痛が生じるのが特徴です。

中枢神経性疼痛は多くは受傷より数週間~数ヶ月後、時には数年後に発症します。疼痛の性質は様々ですが、痺れを訴える場合が多いとされ、排尿、不安、感情変化などで増悪し、運動や温冷刺激などにより誘発されることもあります。

中枢神経性疼痛の場合は専用の評価用紙を用いて評価をしなければなりません。

心因性疼痛
「心因性」とは、体の異常によるものでなく、心理的な原因に由来します。
明らかな身体的原因がなく、その発生に心理社会的因子(家庭環境、職場環境、強いストレス、経済的不安など)が関与している痛みを、従来は「心因性疼痛」とされていましたが、多くは心にのみ原因があるということではなく、多くの要因(生物学的、心理的、社会的、行動要因)が複雑に関与する可能性があります。

内臓性疼痛、血管性疼痛
腹腔および腹腔内臓器の病変が原因で生じる痛みであり、腰痛との鑑別が必要になります。
原因としては腎臓・尿路結石、解離性腹部大動脈瘤などが挙げられます。

痛みはそれぞれが単独で存在する場合もありますが、複合的に存在していることも多く(混合性疼痛)、痛みの評価は慎重に行う必要があります。

痛みは身体にとって緊急性が高い部位のとき、例えば皮膚や神経が原因の場合、急性外傷の場合は鋭く、激しい痛みで痛みの場所が明確である場合が高く、緊急性の低い部位のとき、筋肉や内臓などの痛みや慢性痛は鈍く、局在性が悪い痛みを訴えることが多いのが特徴です。

緊急な外傷などの場合は難しいですが、痛みが生じたときは冷静に、どのような痛みなのか、どのぐらい持続するのか、日内変動はあるのか、特定の動きや姿勢で増強するのか(再現性があるのか)どのような痛みなのかについて自身で把握し、適切な医療機関を受診することも、痛みの早期治療には大切になります。

痛みの最新科学

1.前頭前野の機能と痛み

近年、前頭前野は運動野や視床・視床下部・扁桃体とも総合的な連絡をとっており、そのため運動系、鎮痛系、自律神経・情動系にも深く関わりを持っていることがわかりました。

そのため、前頭前野の機能が、ケガの回復や運動能力、痛みの回復に大きく影響を与えているのです。

特に前頭前野は意欲や創造、計画などの機能を担っており、ネガティブな感情や発言が多い人や注意散漫で機転が利かないなどの特徴がある人は痛みが慢性化しやすい傾向にあります。

2.神経伝達物資の合成と痛み

ネガティブな思考や考え方も、脳内の伝達物質により作り出されています。

ドーパミンなどの神経伝達物質は興奮性に働き、GABAなどの伝達物質は抑制性に、セロトニンなどの伝達物質は伝達物質の調整などに使われます。

とくにセロトニンは、痛みの抑制のほか、気分の変化などに関係している重要な物質といえます。

これらの伝達物質は食べ物に含まれるアミノ酸などから合成されており、ケガの回復や思考の改善には治療だけではなく、それらを構成する物質を高めるような生活の改善も必要になります。

たとえばセロトニンを増やすには、その原料となるトリプトファンを多く含む食品(豆腐・納豆・味噌・しょうゆなどの大豆製品、チーズ・牛乳・ヨーグルトなどの乳製品、米などの穀類)を意識的に摂取することや、その合成のために太陽光を浴びるなど生活習慣を見直すことも必要になります。

また、トリプトファンを吸収する腸の状態も重要であり、腸でトリプトファンを取り込めないと脳ではセロトニンを合成できないため、腸が脳活動を抑制する腸脳相関が起こるといわれています。

そのため、腸でトリプトファンが吸収できるように腸内フローラ(腸内細菌叢)を正常に保つことも必要です。

腸内細菌についてはこちらの記事もご参考ください👇

まとめ


痛みの定義と分類についてまとめました。

痛みは取り扱いが難しく、原因も多岐にわたるため、痛みの急性期に適切に対処しなければ治療が難しくなります。

自分である程度、痛みについて把握し、説明できる能力を持つことは、適切な医療機関を選ぶことができ、そして痛みの原因に合わせた適切な治療を受けることに繫がります。

痛みは生命を守るための信号であるために、様々な部位が命を守る行動を起こします。

そのため、持続した痛みは脳や全身性に影響を及ぼし、私たちの健康を脅かすことになります。

これぐらいの「痛み」とあなどらず、早期に対処することが、健やかで活動的な生活を守ることに繋がるのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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