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本を読むこと ~ 歩きながら考えるを読んで歩きながら考えた ~

ヤマザキ マリの著書「歩きながら考える」は旅する漫画家である著者がパンデミックで立ち止まることを経験し、立ち止まる中で得た新たな境地や思考、環境への適応など、そうした「気づき」をもとに、新たに歩みはじめた著者の記録です。

私はこの本を機内で読んでいます。

この新型コロナウイルスによって世界中の多くの人が立ち止まることを余儀なくされました。

私もその一人です。

コロナ前は目標としていた「世界で活躍できるトレーナー」、その目標のはじめの一歩となる活動をはじめたばかりでした。
それがコロナによって一変し、世界はおろか、自分の住む地域も出ることができなくなり、3年間飛行機に乗ることができませんでした。

おかげで日本を飛び出して行う仕事もできなくなり、目標としていた活動はおろか、アスレティックトレーナーの資格を取得するための講習会も中止になるなど、あと少しで手の届くところにあった目標を失いました。

「なるようにしかならない」

結局、私はこの運命を受け入れるしかありませんでした。
日々、職場の感染対策と感染予防に追われながら、「新たな世界」の中で作られる価値観や変わっていくルール、倫理観と対峙しながら、自分をアップデートしながら、力を溜めていきました。

Keep moving

本書のラストには「Keep moving」のすすめという章があります。

「人間は基本的に怠惰ないきものである」

著者は述べています。
これには私も同感です。

ヒトは「脳」という考えるための立派な機能を持っていますが、脳はけっこうなエネルギーコストを使うため、基本的にローエネルギーで働くように機能します。

つまり「考えなくても」動けるように行動をデフォルトにします。
なので人間という生き物は基本的には変化を嫌い、考えることを嫌います。
そして、そのヒトの本質を利用しようとするのが、現代の政治であり、経済活動ではないでしょうか?

哲学者スピノザは「考えて、行動しなければ人間に自由はない」と言いました。Keep movingはまさに「自由」のための行動だと私は思います。

著者はこの怠惰について「権威を持つ人間や組織に対して操られることへの許諾である」と表現しています。

Keep Movingは常に好奇心と感性を動かし続けろという意味で、身体と知性に対して栄養を与え、動かし続けることが大切なのです。

溜め込んだ力とルネッサンス

日本ではあまりパンデミックの経験などありませんが、陸続きであるヨーロッパでは過去に何度もパンデミックを経験しており、学校教育や家族の身近な物語として疫病の流行の知識があり、その受け止め方は達観的であると著者はいいます。

「なるようにしかならない」

コロナで死ぬこともあれば、助かることもある、だったら死ぬまで生きればよいと、そのような捉え方をしているようです。

ワールドカップや他国のニュースをみていると、マスクをしていないのがもうすでに当たり前のように感じます。
それもこのような考え方や価値観が根底にあるからでしょう。

日本ではまだ9割以上はマスクを着用しているでしょうか、そもそも、ヒトの集まる場所ではマスクの着用が義務のようにもなっており、大きなアイデンティティの差異を感じます。

それはともかく、パンデミック後の歴史を俯瞰してみれば、14世紀半ばの黒死病(ペスト)の流行後にイタリアを起点にルネサンスが起こりました。

文学や哲学、数学、そして絵画や彫刻などといった芸術分野において、表現者たちの創造的なエネルギーは様々な場所で育まれ、大きな文化的ムーブメントになっていったのです。

このような歴史があるのであれば、コロナのパンデミック後にも同様に、この3年間で溜め込んでエネルギーが爆発する瞬間が訪れるかも知れないと著者はいいます。

現に私も、この3年間は家にいる時間が増えたので、必然的に読書の時間が増え、思索する時間が増えました。

近場の美術館や博物館をめぐり、徐々に動きを取り戻した昨年は、瀬戸内国際芸術祭へ参加し、現代アートに触れてきました。

アートは既存の価値観を壊し、自由を得るために必要なものです。
そして、コロナもまた既存の価値観を壊し、新たな生活をもたらしました。

こうした生活の変化とコロナ禍で立ち止まった際に育んだ、自己価値の変化やアップデートが重なり合って、新たな文化や価値を生み出す力が生まれるのは必然のような気がします。

飛行機を降りた先で


本を閉じ、飛行機を降りて向かった先は日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーの集合講習会場である、国立競技場の隣にある建物でした。

仕事をしてからずっと目標にしてきた資格に挑戦できる権利をコロナ禍にやっと得ることができました。

同じ志を持った仲間たちと出会い、そしてみんなこの3年間で溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、真剣に、楽しんで講習を受けていたように思います。

年齢も育った環境も背景もバラバラの同期生たちとの出会いはとても刺激的で、用意していた名刺もあっという間になくなりました。

これからこの仲間たちとともに切磋琢磨して、2022年度生、全員合格を目指していきたいと思います。

立ち止まっていた3年間は決して無駄ではありませんでした。

そして、やっと歩みはじめることができました。

今年の1冊目にこの本を選び、そして、この移動で読んだことには運命的なものを感じます。

「歩きながら考える」はまさに歩き始めた私にとって、まさにいま必要な1冊だったのです。

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