旅の記憶 ~ GRⅢで撮る現代アートの聖地青森 ② ~
前回の続き。
2日目。
昨日飲み屋に向かって歩いている途中に見つけた老舗の喫茶店。残念ながら夜はしまっていたが朝7時からやっているとのことで、朝食は青森名物のっけ丼をやめて、こちらの喫茶店に行くことにした。
そのときのフィーリングで予定を変えることができるのも身軽な旅の魅力である。
店内には数組の常連さんらしき人たちがいたが、中庭に面した席に座りモーニングセットを注文する。
店内のアンティーク調の調度品に静かに流れる音楽と暖炉の火のゆらぎ。
居心地が良すぎる。
ちょうど旅に出る前、とんねるずの石橋貴明がりんごの街である青森のアップルパイは絶対にうまいというYouTubeの企画があり、タイムラインに流れてきたため見ていた。
なので普段はあまりたべないアップルパイも注文してみた。
タカさんも同じアーケード街を歩いていたのだが、ここのアップルパイを見落としていたのは残念だったかも。
それぐらい美味しかった。
ついついまったりしそうであったが、旅の目的地、青森県立美術館に向けて青森駅をまた路線バスに乗って出発した。
まず入ると、常設展示であるシャガールのバレエ背景画に圧倒される。
とにかくでかい。この雰囲気はやはりiPhoneの広角のほうが伝わる。
シャガールに圧倒されつつ、目的の奈良美智史上最大規模の作品展示を誇る「奈良美智展」に足を踏み入れる。
青森が生んだ現代アート界隈で日本で最も有名といっても過言ではない奈良美智。
その少女をモチーフとした絵画は誰しも一度は目にしたことがあるだろう。
正直、ここに来るまで、奈良美智の作品はあまり好きではないというか、キャラクター的なところが先行していてアートとしての価値について理解していなかった。
ただここに来てその作品を目にすると、それはまぎれもなくアートであり、少女の瞳から連想される無数の思考が頭を駆け巡る。
今の自分の思考・身体を形作るもの、その軸となるものは誰しも幼少の頃から積み重ねているものである。
彼の絵画や所有していたおもちゃ、作業場、青春を過ごしたレコード喫茶など、様々な展示を通して、自分軸の普遍性を感じることができる。
「The Beginning Place」
まさに、出生地である青森でしかできないイベントだったように思う。
同時に私自身、自分の幼少の頃に思い出しながら、自分の軸について思考を巡らせる機会となった。
これだけでこの旅をした意味があったと思える時間であった。
青森県立美術館を後にして、歩いて数分のところにある「三内丸山縄文遺跡」を見に行ってきた。
夏場であれば観光客や修学旅行生で賑わっているのであろうが、雪の中では休みとはいえほとんど人はおらず、そのぶんゆっくりと見学することができた。
美術館内にいるときは大雪であったが、外に出ると晴れて、つくづく自分の晴れ男ぶりに感心しながら、この雪という厳しい自然環境のなかでこの地を選び、住んでいた古代人に思い巡らせていた。
遺跡見学後は路線バスで青森駅まで戻り、夕食の場所やお土産を物色しながら、観光地化されたねぶたの展示(ねぶたの家 ワ・ラッセ)や陸奥湾など周辺を散策した。
もう奈良美智展で私の旅はほぼ完結していたので、この辺はおまけみたいものではあるが、この頃には昨日欠航になっていた同便の飛行機に乗って北海道に帰れるかどうかを心配していた。
だめなら新幹線か、まぁそれも楽しそうだ。
なんて考えていたけど、飛行機は予定通り飛んで、無事に家に帰ることができた。
ちなみにその次の日も同便で欠航になっており、冬の青森‐北海道の自然の厳しさと私の晴れ男ぶりを再確認した旅でもあった。
沢木耕太郎の「深夜特急」に触発されたバスの旅はこうして無事に幕を閉じた。
いつもの「旅行」よりもその土地の風土をより味わうことができたように思う。
次はどこに行こうか。
撮った写真を眺めながら、そんなことを考えていた。
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