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人と比べることの危険性

僕には七つ年上の双子の姉がいる。

僕が物心ついたころ、例えば小学校に上がった時には、すでに中学生だった。小学1年生にとって、中学2年生というのは、もう大人と変わりはない。子どものころの僕にとっては、二人の姉は、姉というよりは小さな母親というイメージだった。だから僕は、母親が3人いる一人っ子だったのだ。

この二人の姉が、とても成績が優秀だったのだ。

伝説の双子の姉と比べられた

姉が通っていた中学校は、市内の新設校で、姉たちが第一期生だった。
その第一期生の中から、当時の都立高校の最難関校に二人だけそろって合格したのだから、それはもう、伝説の双子の姉妹ということになった。

僕が小学生時代には、あまり意識したことはなかったけれど、中学に上がると嫌でも意識せざるを得なかった。

中学に入ると、姉のことを覚えている先生が結構いて、「君があのお姉さんたちの弟か~。お姉さんたちはよくできたからねえ。」と言ってくる始末。

もっとあからさまだったのは両親だった。たった一人の男の子ということで、僕にとても期待しているのがわかった。中学生になると、中間試験、期末試験などがあり、どうしても高校受験を意識するようになってくる。高校の英語教師だった父は、中学に入って英語の授業が始まると、当然のように僕の英語の面倒を見るようになった。そして、その目標は「姉の成績を超える」ことであるのは間違いなかった。

英語嫌いの原因

僕の成績が思うように伸びないとき、父は「お前はもっと頑張れば、お姉ちゃんどころではないんだ。」と言った。
おそらく、僕に自信をつけようと思っての発言だと思うのだけれど、当時の僕にはそれがものすごくプレッシャーとなっていた。なにせ、基準となっているのは伝説の双子の姉妹である。相手が悪すぎる。自分としては精いっぱい頑張っているのだけれど、どんなに努力しても姉の成績には及ばなかった。そんな時、父親は落胆し、さらにプレッシャーをかけてくるようになった。

そのおかげで、僕は英語が嫌いになった。英語の試験が憂鬱で仕方がなかった。英語の成績が悪いと、父親からのプレッシャーが強くなるからだ。今から考えると、英語の成績が飛び切り悪かったわけではない。ただ、基準が姉の成績なので、ほぼ満点を取ることを要求されていた。一つでも間違えば、それでダメ出しを食らうのだ。

僕は今でも、英語が嫌いである。
それこそ、中学から大学院まで、実に13年(浪人時代も含めて)勉強した。大学時代には英語の論文も読んでいたし、社会人になってからは英会話教室にも通った。にもかかわらず、全く身についていないというのもおかしな話だ。根底には、英語に対するコンプレックスがある。アレルギーと言ってもいいかもしれない。

僕は落ちこぼれ

結局、中学時代の成績では、姉を超えることはできなかった。それどころか、足元にも及ばないような状態だったのだ。その差は歴然だった。
3人姉弟で、二人は優秀、自分だけ落ちこぼれだと思った。

誤解の無いように書いておくが、そうはいっても、僕の成績だって悪くはなかった。伝説の双子の姉妹と比べると見劣りはするものの、一般的なレベルからすれば、十分に成績優秀だったのだ。

にもかかわらず、僕は出来損ないの落ちこぼれであるというセルフイメージを作り上げてしまった。このセルフイメージは、僕の人生においてマイナスの影響を及ぼしてきた。これは、とても怖いことだと思う。

人と比較するということは、とても危険なことなのだ。
誰と比較するか、という問題も大きい。

学歴社会の危険性

僕が育った時代は、学歴偏重社会だった。いい学歴を持っていることで、人の価値が判断されてしまう傾向が強かった。今は、あのころと比べると価値観が多様化してきているので、そういう傾向が薄れてきてはいる。それでも、いまだにそういう価値観に翻弄されている人は多い。特に、学歴社会で育った親の世代の価値観が変わっていない。これからの社会は多様性の社会である。親の世代は、自分の価値観を変えていく必要がある。

学歴に関して言えば、上には上がいるのが一般的だ。全国一位でも取らない限りは、必ず自分よりも成績がいい人がいる。その、自分よりも成績がいい人と比較している限りは、自分に自信を持つことは不可能だ。なぜなら、自分は常に他人よりも劣っているからだ。

学力というのはその人の価値を表す尺度にはならない。人はいろいろな能力を持っていて、そのうちの一つの能力に過ぎないのだ。それだけで、あたかもその人の能力を表してしまうと考えるのは間違えている。

学歴だけで比較をしていたのでは、自分の強みに気が付くことはない。常に上を目指すことはよいことだけれども、一方で客観的に自分の位置を見る目を育てる必要がある。人と比較することは、時として必要なことではあるけれども、きちんと評価をしなければ自信を失うだけで、その損失は計り知れない。

もし、子育て中の方がこの文章を読んでいるなら、心してもらいたい。自分の子どもの良いところを指摘してあげてほしい。他人と比較して、ダメな奴だと言わないでほしい。子どもの自信を育ててあげることが、学校の成績を上げることよりもはるかに重要なことだからだ。

(つづく)


自分がうつ状態に陥って、そこから這い上がってくる過程で考えたことなどを書いています。自分の思考を記録しておくことと、同じような苦しみを抱えている人の参考になればうれしいです。フォローとスキと、できればサポートをよろしくお願いします!