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涙が出てくる(理由なんてない)

本当に、訳も分からず涙が出てくるんだが。


泣き虫の自覚がある。幼い頃からよく泣いていた記憶があった。
どうして泣いてしまうのか。泣いてしまったのか。
自分の言葉が届かなかったから。
自分の言葉通りにならなかったから。
怖かったから。悲しかったから。
きっと、それが全てだった。

幼い頃、当時の同級生はひどく困惑していただろう。
なんでこんなことで泣いてしまうのか、と。
泣かすつもりなんてなかったのに、なんで泣いているのか。自分がまるで悪いみたいじゃないか。本当に止めて欲しい。
きっとそう思っていただろう。だから同級生は、こんなことを言った。
「涙を流しすぎると涙が枯れるって先生が言っていたよ」
本当に泣くのを止めて欲しかったから、そんなことを言ったのだろう。なんでその時泣いていたか、自分は覚えていない。
泣いてしまったことは本当に申し訳ないし、当時の自分はかなりの甘ったれだった。心から申し訳ない。
言われたら後、結局は涙が次々に出てくるものだから、泣き止むのには時間がかかった。

今も涙が出てくる。
幼い頃よりもずっと複雑な涙に変化してしまった。

涙なんて流したくない。冷たい人間と指さされても良いから涙腺なんて取っ払ってしまって、どんな時でも涙を流さない人間になりたい。
涙なんて面倒だ。
涙を武器にしていると言われるのがもっと面倒だ。武器にしているつもりなんてこれっぽっちも無いのにだ。

何故、涙が出てくるのかいくつも調べた。
調べても出てくるのは、泣かない方法がほとんどだった。違う、自分が知りたいのは涙が訳もなく出てくる理由だ。

だから前提を考えてみることにした。

涙がある理由は何か。
一つ目の理由として、体液的な存在だと言う事。
二つ目の理由として、眼に入り込んだ塵等を排出する為。
上二つの理由は、つまり目を守るための物だと言うことだ。ならばそう簡単に涙腺を取り除きたいなんて出来やしない。
そして三つ目。この三つ目が厄介なものだ。感情が高ぶる、つまりは何かしらのストレスを緩和するために涙が流れるということだ。
難しい話はしないでおく。というか、そんな専門用語知らないので、つまりはそういう事という知識だけは置いておく。

とにもかくにも、自分はこのストレスに対して非常に弱いのだろう。
集団の中で前に立ち、発表する時、何度涙が流れそうになった事か。
怒られて何度泣いてしまったか。
優しく諭されるように指摘されてもまた然り。
お化け屋敷なんて論外。怖くて号泣だ。
思うようにうまく行かず、涙ぐむ。
周囲からの重圧がいつの間にか多大なストレスになっていることに気付かず、いつの間にか涙があふれていた。

怒られることなんて嫌だ。けれども優しくされるのも嫌だ。
どちらにしても涙が流れてしまう。
物語を観て、読んで、感動故の涙だけであればどれほど良かったか。

これも自分の弱さだと言うのだろうか。

もっとも厄介だと思うのが、感情そのままに本音で話そうとする時だ。
実を言えば自分は実の両親と、思ったこと全て、感情のままに本音で話そうとする時でさえ、何故か涙が溢れてしまいそうになる。
感情そのままに話そうとするのがストレスだというのだろうか。本音を話そうと高ぶる感情が涙腺を刺激してしまうのだろうか。
意味が分からない。

悲しいことではない。勿論楽しいことでもない。
伝えたい。ただ伝えたいだけなのに、言葉よりも先に涙が出てくる。
けれども出来ないから、なるべく感情を抑えて論理的に話すようにはしている。だって泣いてしまうから。
涙が出てこない為に、苦しさに耐えるしかった。

働いている時だ。
「なんで泣いているの?」
つい、感情そのままに職場の人に話をしてしまい泣いてしまったことがある。その時に聞かれたのだ。
自分は当時、答えられなかったし、今もきっと正確に伝えられる自信は欠片も存在しない。

ただ分かるのは、悲しくはないこと。もちろん楽しくはないこと。感情を抑えるのが苦しかっただけだと言うこと。別に分かって欲しいということではなく、ただただ伝えたくて、そして受け止めて欲しかったということ。

調べてみると、似たような悩みを持つ人達がいることを知った。
自分一人だけではない悩みだったことに勝手ながらに安堵してしまった。
なんせ自分は解決方法を知りたいわけではなく、根本的な原因や理由を知りたかったのだ。
だから同じような悩みを持つ誰かがいると言うことは、そのうちの誰かが原因なり、理由なりを知れる手がかりを見つけているのではと期待したからだ。

事実、あった。
おそらくはこれだろうという見当はついた。

多くの人達が、何か伝えようと言葉を発する前に「あ」や、「え」なんて言葉を発することがある。
原理としてはそれと似たようなもので、言葉を発する為の準備の為に涙が出てくる、らしい。

なんて厄介な。
というのが正直思ったが、なるほど言われて見れば一度泣いてしまえば、案外その後スムーズに言葉に出来るなと思い返す。
もちろん例外はあるが、最初のその一瞬、涙が出てしまうそれさえどうにか対処すれば、ちゃんと話せるのではと少しばかり希望が見えた。

今すぐに変えることは出来ないのは分かっている。理解している。だけれども、そのうちに涙なく感情のままに本音で話すことが出来れば良いと思っている。
勿論、必要な時だけにそうやって話をして、それ以外の時は今と変わらずになるべく論理的に落ち着いて話すようにしよう。

それにだ、涙が出てくるというのは他にも厄介なことがある。
鼻水が出てくるのだ。それはもう尋常ではない量だ。今のご時世、マスクをつけても良い環境なので、鼻水が出てきても隠せるのが便利だ。
なんだったら泣くのを我慢したせいで鼻水が大量に出てくるのだから、本当にマスクをつけていられる環境で助かっている。

もちろんだが、バレているだろうし、気を使わせてしまっているのが本当に申し訳なく思う。
ただ泣きたくて泣いているわけではないのだけは、頭のすみっこあたりにでも置いといてくれると有難い。こういう奴なのだと思ってくれるだけで十分だ。なんなら放置で結構。
これ以上求めることはない。いや、一つあった。
どうか泣く理由を聞かないで欲しい。答えることが難しいから。

外から虫の声が聞こえる。涼しい風がすぅっと身体の横を通り過ぎていく。小さな音で流している音楽がそろそろ寝る時間だと、自分の瞼を落とそうとしてくる。
うん、寝よう。たくさん吐き出したから、今夜はよく眠れそうだ。
おやすみなさい。

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