「お母さんに会いたい」(2023年4月25日時点の「私」の傾向性)
私は、心的な事故によって、精神的な母を失いました。
母は肉体としては存在していますが、私の中の母はあの時、確実に死にました。
私が殺したのかもしれません。
20年近く私に寄り添っていた母は、あの時、それらの記憶と共にどこかに行きました。
その母を連れ去ったのは、「醜肉球体 奇形」です。
それは母と私を同時に犯し、連れ去りました。
私は必死に、この出来事に意味を付加しようとしました。解釈と理性によって。
「許しが、全てを救うから」
「この出来事はきっと自分の糧になる」
「誰もが同じ弱さを抱えている」
「だから仕方ない。だから大丈夫」
そうして私は、心的に深く傷つき、どうしようもないくらい苦しんでいた自分自身を、思考の檻に閉じ込めました。
そしてその檻の周りに、何重ものもの壁を作り、無意識の奥底に沈めたのです。
そうして私は、全てを終わったこととしました。
全ては解決し、全てを受容し、全てを許し、私はひとまわり大きくなった。
そう思っていました。
いや、そう思いたかった。そう思うことにしたかった。そうしないと、自分が保っていられなかった。その事実に、10年かかってやっと気づきました。
私は、たくさんの私を殺してきました。
私の歩んできた道を振り返ると、解釈によって殺された私の死骸が、いくつも転がっています。
それらの私は、時間によって形は崩れ、もはや原形を留めていません。
ただのモノとして、固形物としてそこかしこに転がっているのです。
私はそのことにすら気づかずにいました。
しかし、私の死骸は、実は死んでいなかった。
片手だけになったとしても、その生命の息吹はかろうじて維持され、私に何かしらの信号を、必死に届けようとしてました。
それは私の理性を超えた私の言動として現れました。
私は傷つくことは知っているくせに、自傷的に精神的負荷に自分を追い込むのです。
それは、私には理解不能でした。なぜ私は、こんなことをするのか。
ただそれは、理性を超えた私の心、その仕業だったのかもしれないと、今なら少しわかります。
私の亡骸は、必死に、「まだ生きている」と叫んでいたのです。
そうして私を、理性を超えた言動に駆り立て、私に心的負荷を加えることで、心と向き合わざる得ない状況に私を追い込み、亡骸となりながらもかろうじて生きている自分に気づいてもらいたかったのでしょう。
私はたくさんの私を殺し、たくさんの私を無視してきました。
その代償は非常に重いと今、感じます。
私はその死骸を一つずつ、丁寧に、拾い、手入れをし、息を吹きかけ、私自身に統合させていかねばならないのだと思います。
そしてそのプロセスは、とても繊細で、かつ、心的に負荷のかかるものです。
私は今まで決して出会いたくなかった、弱さ、脆さ、危うさ、異常さ、憎悪、といったものに向き合わざるを得ないからです。
私は、私の理想を捨てねばならないでしょう。
こうありたい。こうしたい。
そういったあらゆる理想。理性の産物である理想。それを手放さずして、私は私の亡骸を拾い集めることはできません。なぜならその亡骸は、他でもない私の理性の手によって葬り去られたからです。理性では救えないのです。
一方で、私は理性を責める気はありません。
それは私自身を守ろうとしてくれた。私がこれ以上あの出来事を直視し続けると本当に壊れてしまうことを恐れ、私を守るために必死に働いてくれたのだから。
彼らは私のこめかみあたりに宿り、防衛のための、解釈の壁を必死に建設してくれました。
私を守るため、多くのものを築いてくれた。
しかし彼らも疲れているのです。
私は理性にこう言いたい。「もう大丈夫だから。もう僕は大丈夫だから。今まで本当にありがとう。ちょっと休んでいいから」と。
それでもここまで必死に働き続けた私の理性は、簡単には手を抜けません。なぜならそれをするのが怖いからです。
私は、身体と、心と、理性全てに優しく寄り添わなくてはなりません。丁寧に丁寧に。そのプロセス以外に、道はないのです。
私は「母に会いたい」。
あの時、私の元から去り、2度と帰ることのない私の中の「母に会いたい」。
それは私の中のどこかにいるらしいです。素材として、養分として。
私はまだそれを感じ取れたことはありません。
きっと私が自ら殺してきた私の骸の素材として、遠い過去に置き去りにされているのでしょう。
私は今からそれを拾い集めに行かねばなりません。
私はこれから、今まで歩いてきた道をゆっくりと、丁寧に、私の死骸を集めながら、折り返していきます。
私は生まれた地点に「死」を迎え入れる形で戻っていくのでしょう。
人生は円相を描く。
人生の半分で自分を殺し、残り半分で殺した自分を甦らせる。
その人間生命の神秘的なプロセスの中で、私は私の日々をただ歩むだけ。
ただただ逃げずに、自分と向き合いたいのです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?