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【グッチョ制作現場から】出所者と身元引受人に取材して見えた”人生に必要なひとかけら”

正直に言うと、今回の記事を出すのが少しだけ怖かった。
なぜなら、今回の取材相手の一人は”刑務所に入ったことのある人”だったから。こういう経験をした人を行政のメディアで取り上げることは少ない。だからこそ、記事を書く上で訴えていきたいこと、”着地点”というものをシビアに捉えて、執筆した。

今回の記事のきっかけは、普段から業務上お付き合いのある「久留米越冬活動の会」の事務局長、奥忍さんとの立ち話だった。記事でも書いているが、忍さんは彼の身元引受人となっている。

話を聞いたのは、彼の仮釈放の直前。「私、今度身元引受人になるんです」と興奮気味に話す忍さんから、新田さん(記事中の仮名で記載)のことを聞き、再犯防止という側面で何か大切なことが見えてくるのではないかと直感。すぐに取材を申し込んだ。

越冬活動の会の事務局で話す忍さん。更生保護に積極的に取り組みたいという強い意志を感じました。記事の書き出しにもありますが、「仕事としてじゃない。人として関わっている」

新田さんへの取材の日。少し緊張ながらも、彼の部屋で2時間半にわたり、いろんな話を聞いた。刑務所の中での話、TCユニットの話、そして、罪状や経過の話、家族の話。もちろんすべてを記事はとても納めきれないほどたくさんのことを赤裸々に語ってくれた。しかし、この日に新田さんに言われた言葉で、取材後もこびりついて離れなかった一言があった。

「再犯防止の記事で、なぜ出所者じゃないといけないんですか」。

僕はワード15枚以上に及んだ文字起こし原稿を読み返しながら、改めて記事の、そして「主人公が新田さんである」必要性を考えた。いろんな思いがよぎる中、身元引受人である忍さんに改めて話を聞きに伺った。その時にこの一言が出て、自分の中での狙いというか、「新田さんである」必要性がはっきりとした。

「人は人を通さないと自分のことが見えなかったりするでしょう」

新田さんとの面談で柔らかな笑顔を見せる忍さん。優しいだけでなく、怒りも悲しみも、さまざまな感情を素直に出し、自身をさらけ出して寄り添う印象を忍さんから受けました

新田さんの逮捕前と今で違うのは、「自分の傾向と向き合い、価値観が変化し出したこと」。それを可能にしたのは、彼と向き合う存在が居たかどうか。刑務所で経験した回復プログラム、そして身元引受人をめぐっての母親の葛藤との直面、そして忍さんの存在。

記事をまとめ、新田さんと最終の確認を行う中でもいろんな意見交換をした。もしかしたら、新田さんや忍さんにつらい思いをさせるかもしれない。新田さんもそのシビアさを感じているからこそ、少しでも価値のある記事になってほしいと、真剣な意見を寄せてくれた。

表紙に書いている「Voice」の文字も、意見交換の場で新田さんからの要望でした。再犯に至ってしまったとき、出せなかった一言がある。自分がやばい状態だということは感じていた。でも「助けて」という声を上げきれなかった。そんな気持ちを「Voice」と言う一言で表現したいと。

今回のレイアウト版の表紙。市のホームページに公開しています

発行した日に、僕も個人のSNSなどで記事を紹介した。翌朝、リアクションをチェックすると意外な反応が。仕事でお世話になっている多くの人々がいいねを押してくれ、特に行政・広報・出版・報道などにかかわる人々がコメントを入れてくれたり、投稿をシェアしてくれたりと、特に熱い反応をしてくれていた。

どんなことがあれ、もちろん犯罪は肯定されるものではない。しかし、この記事で、犯罪を犯す人も一人の人間で、その背景にはそうしかなりようのないこともある。そして、それに本人だけの力で抗って解決できるものばかりではないということが伝わればうれしいと思う。

人生に必要なひとかけら。
そういう存在が誰の周りにも、少人数でもいれば、犯罪だけでなく、自殺や虐待、いじめ、争い。いろんなものが緩和されるのかもしれない。地域共生社会に必要なピースのヒントをもらった取材だった。

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