見出し画像

すてきな女むてきな女②

なっちゃんのお母さんが倒れ、なっちゃんが大丈夫なのかが心配だった。

なっちゃんは夜遅くまで仕事をし、出張もあり、子供のことや家事は全てお母さんに任せきりだった。
お母さんが倒れてしまったことで、生活は一変。なっちゃんにかかる負担は想像以上のはずだ。

もし今、私の母が倒れたら?
仕事をしながら、母の面会に行き、実家に父の様子を見にいって…そんな事ができるだろうか。
きっと出来ない。
今の職場に実家から通うこともできず、仕事は辞めざるをえないだろう。
自分に置き換えてみて、愕然とした。

なっちゃんには信頼できる友達もいるだろうし、私の出る幕なんかない事は重々承知している。
でも、何かしたい。自分にできる事はないか?と思った。

なっちゃんへのメッセージを母にLINEで送り、それをなっちゃんに転送してもらった。

そしてお節介な私の母は、手作りのおかずや父が家庭菜園で作った野菜を、山口家に持って行っていた。


約1ヶ月が経過し、なっちゃんのお母さんは意識が混濁しつつも話せる時もでてきた。でも3週間も寝たきりだったので、リハビリ病棟に移る事になった。

少しずつ回復し、なっちゃんから母に、車椅子に乗っているなっちゃんのお母さんの写真が送られて来た。母はそれを私に送ってくれた。
お母さん、お父さん、なっちゃん。
3人とも、良い笑顔で、私は写真を何度も眺めては嬉しくなった。
なっちゃんは小学校の時の面影そのままに、素敵な女性になっていた。

そして昨年の8月、漸く退院が決まった。
自宅での介護となると、入院中より更に大変になる。


うちは自宅で祖母の介護を行なっていた。
当時の母はイライラしていたし、家の中はギクシャクし、このまま家族が崩壊するのではないか、と毎日思っていた。
夜中のトイレ介助もあり、睡眠不足。
祖母を置いて家を出る事はできないので、外食や旅行も出来なくなった。
自宅での介護は家族の生活を大きく変え、その形さえ変えてしまう事がある。


山口家では、退職したお父さんを中心に、お母さんの介護が始まった。
デイサービスやショートステイを利用し、家族で協力しながら、なんとかやっているようだ。

そして11月になり、母からこんなLINEが来た。

『寒くなったね
山口さん だいぶ よくなって来ました
手を持ってたら少しずつ
歩けます

なっちゃんが むくみに
会いたいので 是非
いっしょに来てほしいて
年末に帰って来るので
いっしょに 寄せてもらうね と 言ってあります
暖かくして 過ごしてよ』

私の中では、どこか遠く、異国の地に住んでいるなっちゃん。
そのなっちゃんと、会う日がやって来るなんて。
会うのはまだまだ先なのに、LINEを読んで早くも緊張する。

お互いの近況はなんとなく知っているとは言え、最後に会ってから36年。
私はなっちゃんとのいくつかの記憶を持ち合わせているけど、なっちゃんは私のことをどのくらい覚えているのだろう?
そもそも私のことを覚えているのだろうか?
私達には、小学校の同級生だった、と言う事以外に共通点はない。

会いたい気持ちと不安が入り混じったまま、お正月を迎えた。


なっちゃんがアメリカへ行くと聞いて、私は運動場で遊ぶなっちゃんをよく横目で追っていた。
でも、特別仲が良かったわけでも無いし、何故そんなに追っていたのだろう。

自分の記憶を辿っていて、ふと思い出した事がある。

それは、I君の存在だ。

I君は背が高く、運動神経が良くて、ちょっと不良っぽい子だった。決して顔がかっこいいと言う訳では無かったが、友達も多く、目を引く存在だった。

私は6年生の時、I君を好きになった。
どこに惹かれたのか、今となっては分からないが、その時はちょっと悪そうな人がカッコ良く見えていた。

当時の私は真っ黒に日焼けして、背が低くて、ガリガリに痩せていた。
ショートカットで凹凸の少ない、のっぺりとした顔立ち。
妹からはガイコツと呼ばれたりもしていた。
一丁前に片思いはしていたけれど、恋愛と言う言葉からは程遠い出立ちだった。

そんなある日、I君の好きな人が、なっちゃんだと言う噂を耳にしたのだ。
I君が好きな、なっちゃん。
可愛くて、華があって、私も憧れるなっちゃん。
だからきっと、私はなっちゃんの事を見ていたのだ。

なっちゃんがアメリカに行くから見ていたのでは無い。
I君がなっちゃんの事を好きだと聞いて、なっちゃんが気になって、見ていたのだ。
そして、そんな時に、なっちゃんがアメリカへ行くと言う話を聞いたのだ。

なっちゃんがアメリカへ行くとこになり、I君がなっちゃんに告白する、と言う噂も聞いた。
告白したのかどうか、その結果がどうだったのかは何も知らない。


とうとうお正月がやって来た。

1月2日の午後。
母と連れ立ってなっちゃんの家へ向かった。
私は緊張するとお腹が痛くなり、お腹を壊す。
初めて訪問するなっちゃんの家で、急にお腹が痛くなったらどうしよう、と不安は膨らむばかりだった。

最寄駅から5分程歩き、なっちゃんの家の前に到着した。
数軒並びの一戸建ての一つ。
お庭は綺麗に整えられていた。

私は母に緊張しているところを悟られないように、ずっと平静を装っていた。

母がインターホンのボタンを押した。
「どうぞー。」
と声がして、玄関の扉が開くと、フランス人形のように綺麗な少女が出て来た。
そしてその向こうに、写真と同じ笑顔のなっちゃんがいた。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?