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犬もおまわりさん

夜道をダラダラと歩いている男性。
 
「今日もだりぃ~。
 何で毎日、残業残業って。
 
 あの会議なんなんだよ?
 
 報告書読みあげるだけなら、
 メールで回覧しろっつうの!
 
 あ~もう面倒クセェ~。
 晩飯は今日もコンビニ弁当。
 
 金もったいねえ~。
 あ゛~イライラする!
 
人がまばらなのをいいことに、
胸ポケットからタバコを取り出し、
吸い始める男性。
 
「遅くまで仕事して、
 何で明日も定時出勤?
 馬鹿じゃねえの!
 ほんとに…
 ん?なんだお前?」
 
歩きタバコをしている男性の横を、
並走している小さな白い犬。
 
男が立ち止まると、
犬も立ち止まり男を見上げてくる。
 
「何で付いてくるんだよ?!
 俺になんか用か?
 あれ?お前ロボットか?
 それに何か目立つ首輪してるな」
 
よく見ると犬の首輪には、
大きなネームホルダー名札が付いていた。
 
「何だ飼い犬か。
 お前、何て名前なんだ?
 ……
 ゲェッ!お前!
 サツ警察の回し者か!
 
ネームホルダーには旭日章きょくじつしょうがあしらわれ、
下にPochiポチと名前が刻印こくいんされていた。
 
「何なんだお前!
 俺をつかまえようってのか?
 歩きタバコで逮捕するってか?
 ああ上等だ!
 やれるもんなら、やってみろよ!
 手錠をかけられるならかけてみろ!
 さあ、ほれ、さあ!」
 
すると犬はずっと男を見て、
ハアハア言いながら尻尾を振っている。
 
そこに男の吸っていたタバコの灰が、
ポトリと落ちる。

パクッ
 
犬はそれを空中で見事に食べた。
 
「うおっ!なんだなんだ!
 お前、すげえなあ~!
 そんな芸ができんのか!
 ……
 じゃあもう1回…ほれっ」
 
パクッ
 
「わかった!
 お前あれだろ!
 警察の生活環境課の犬だろ?
 俺がポイ捨てすると思って、
 付けてきたんだな。
 ついに日本の警察は、
 犯罪を未然みぜんに防ぐシステムが、
 できたんだな…感心感心。
 よし!お前そこで待ってろ!
 ちょっとコンビニ寄ってくから。
 なっ!」
 
男は犬を待たせて、
コンビニで買物をする。
 
晩ご飯とビールとつまみを買った男性が、
ニコニコしながら出てくる。
 
「あれ?
 一匹増えてる?!
 
Pochiぽちの隣に、
小さな黒い犬が並んでお座りしている。
 
「何だ、仲間か?
 しかも白と黒で、
 まんま警察カラーじゃねえか」
 
二匹は相変わらず男性を見上げて、
可愛く尻尾を振っている。
 
「よし俺は今から家に帰る。
 お前ら家までおともしろ!」
 
そう言うと男性の両脇りょうわきを、
警護けいごするかのように歩く犬たち。
 
途中で男性は我慢がまんできなくなり、
袋からサラミを取り出し食べ始める。
 
そしてその包み紙を、
犬の方に投げた。
 
パクッ
 
「やるな!
 こいつら超便利じゃん!
 そうだ今度、キャンプ行くから、
 その時、こいつら連れていけば…」
 
そんな犬の利用方を考えながら、
またサラミを食べては包み紙を捨てる。
 
そしてそれを軽快けいかいに食べる犬たち。
 
やがて男性の自宅に到着する。
 
「いや~いいもん見れた。
 
 ムシャクシャしてたから、
 お前らのお陰でスッキリしたよ。
 
 お前らが付いてくる方法、
 ネットで調べておくからよ。
 
 今度の週末、また呼ぶから!
 その時はお前らよろしくな!」
 
玄関前に行くと、
更に三匹の犬が待っていた。
 
「何だよ、お出迎えか?
 それともお見送りか?」
 
その三匹の横に二匹も並ぶと、
男性に尻尾を振りだす犬たち。
 
「お前ら可愛いし、役に立つし、
 必ずまたお前らを指名するから!
 そうだ名前覚えておかないと!
 Pochiは知ってるから、
 その隣のお前の名前は…」
 
男性がネームホルダーを見ようとした時、
犬は一斉にうつむいて…口を開いた。
 
次の瞬間…
 
ゲェェェェェェーーーー!!!
 
「おい!!
 何やってんだお前たち!!
 ひとんちの前で!!
 止めろーーーー!!
 散らかすなーー!!」
 
犬は全てのものを吐き出した。
 
そして一斉に右習みぎならをする。
 
「なんだなんだ!」
 
犬たちは右足を高々と上げた。
 
「うわっ!止めて!
 それだけは勘弁してくれーー!!」
 
シャャャャャーーーーー!!
 
ピピッ
 
【マーキング完了】
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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