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「オスカーピーターソン」へ、C4の音香を捧ぐ

このところ、ある程度寝支度半ばで作業をしながら寝落ちというスタイルが定着してしまい、しっかり整った状態で寝ることがない。それでも明日から新しい月がはじまると考えると、何となくあらためる必要性に駆られて、さすれど寝付けなかったという私らしく一長一短、いや二短くらいのゆるやかな1日の始まりだった。

3月1日。いつもは目覚まし不要の身体でも、3時間そこらの睡眠ではそうとはいかず、5分毎に刻み仕込んだ目覚ましの、2/3(残機1、セーフ)でようやく床から身を剥がす。まだ半分寝たままの身体でTo Doタスクをチェック。やることはあるものの、時間拘束のあるお仕事が少ない日…。

とりあえず起きて動けたという少しの自信と共に、3月、春はじまりの1日目だから、寝る前に閃いた予定をフレッシュなまま実行してみよう。

ということで、今日はディスクユニオン配給の映画「オスカーピーターソン」(OSCAR PETERSON / BLACK + WHITE) を観に行ってきた。

(大阪では上映終了しているものの、現在関西では京都シネマ(3/7迄)と、兵庫で上映されているそう)

9:40開始…早い。強制朝活である

京都では2月から上映開始したようだが、3月は1日に朝1回だけの上映。スタート5分前に滑り込み購入したシートは、ど真ん中でまだまだ空きがある。平日とはいえファーストデイは少しチケットが安くなるから、席は期待できないかな?と思っていたけど、場内に女性は…私ともう1人くらいで10人いるかいないか。同じ年齢層の方はほぼ居なさそうだった。

ジャズという音楽はこうなっていくのかなぁなんて思いつつ、私はそれでもなんとなく手狭にならない、澄んだ空気のあるこの感じ、悪くないよな…むしろ好き寄りだな、とも思った。

さて 内容を端的にまとめるとすると、現行ミュージシャンたちや評論家、関わりのあったプロデューサーらが彼への愛を、言葉、歌、音で表現し自身の音源や映像と共に半生を描くような伝記ダイジェストである。ミュージシャンも中堅〜若手のジャズもそこそこ聴きますよ、と言う人ならきっとご存知のプレイヤーも多いだろうという印象で、歴史を知りつつも終始楽しく自然と細かくリズムをとってしまうような、そんな映画だった。


➖ここからネタバレを含むので、見る予定の方はご留意くださいね➖



本人の映像付きの肉声や演奏、特に好きでよく聴いていた「C-jam Blues」や「In The Wee, Small Hours Of The Morning」など、現行アーティストによる演奏も交えつつ収録されており、その点でも満足。しかし、なんといっても切っても切り離せない…アメリカ公民権運動期の音楽的な背景かつ当時情勢の映像、そして様々なインタビューから「Hymn for Freedom」が演奏される。私の大学時代の卒研テーマとかなり被るところもあり、臨場感たっぷりに当時の状況を体感した映画中後半からは、目頭がずっと熱かった。何よりもすべてが音楽と、彼への慈愛に溢れていた。

先程も少し触れた、劇中で彼と親交があった/敬愛する数人のミュージシャン達がオスカーピーターソンの楽曲を演奏するわけだけど、やっぱりどれだけ寄せて演奏しようとオマージュで、でもそれぞれの解釈があって本当に良くて。同じ曲・楽器でも奏者一人ひとりでやっぱり変わることを、本人の演奏と瞬時に比較することができるのが、またこの映画のいいところだった。やっぱりジャズジャイアンツたちには敵わない、凄いよなぁ…もあるし、いや、良いやんか、今の人たちもさ!っていうのも。

古き良きと、新しいものの良さ。文化というのはまさに読んで字の如く、文芸として語り継がれるものが後世の解釈によって進化し、同じものすらまた違うようにも継承されるものなんだなぁと。まさに「かわってはいけないものを守りつつ、かわる」いわゆる不易流行というのは、こうして人同士の関わりがある限りずっと自然と起こっていくのだろうなと思った。

最後の奥さんであるケリー氏が、オスカーピーターソンの曲を、彼自身が家で使っていたピアノで弾いてもらいたいという気持ちでつくったホールがある話もこれまた愛情に満ち満ちていて、音楽という目視できないものだからこそ、絶やさないことー こうして記憶、記録、伝承していくことの必要性を大いに体感できた。

映画の最後あたりでは、亡くなる前は家族と共に過ごせて幸せだったという背景があった。彼自身、インタビューではずっとツアー中の演奏後に、あてどない孤独があったと言ってた言葉が、最期には報われたのだとホッとした。そしてそれらがあったから、彼は音楽の熱を燃やし続けられたのかもしれないなともとれた。ステージで存分にスイングしたり、時には一音一音を凝らして100%、それ以上のものを出し切る様…またその時々の振り返りまで、記者のインタビューに素直にこたえる姿もー その人柄が真に音に滲み出た人である。

私は、音楽的にみてまだまだ自分を追い込む必要があるだろうし、違う身のおき方をして、全力で自由に表現してみたい。思った以上に自分自身が感化される映画であった。

終わってから誰にもバレないくらいの鼻歌まじりで次の映画のあたりをつけ、階段を降りる。

お店に人がいらしたので絶妙に映えない角度。
萎え写真を、毎度申し訳なく思う(笑)

このシネマの1階には「lisn」というお香のお店がある。母体は松栄堂さんというところで、創業は今から300年も前。老舗が手掛ける新しいお香のショップで、その名は「響く、共鳴する」というコンセプトからきているとのこと。(ジャズが100年と少し、オスカーピーターソンが2025年で生誕100年らしいから…その3倍か、凄い)

今日という日にはぴったりだな…と、以前購入した線香がまだ少し家に残っているものの、いい機会なので春の香りを探しにいってみる。

このお店では季節のおすすめが店の入り口付近にあり、それでもたくさん並んでいるのだが、奥手にはさらに1本ずつ軽く試香しながら購入できるスペースがある。もう数10…いや100種類くらいあるのではという中から、好きな系統で絞りつつ試していくことができる。時間があれば何時間も居てしまいそうになる空間。

音楽に基づく香りもあって、季節のおすすめはD4(レの4th)のすみれを基調とした紫色の線香だったが、なかなか素敵…と思ってすぐ、以前購入してまだ大事に残している香りだったことに気づく(ちなみに私の中でレの4thはクリーム寄りのくすんだ黄色のイメージなんだよなぁ)。

C4(ドの4th)を嗅ぐと、しっくりきて、そう言えばこれも持っていたけどすぐに焚いてしまったんだった。こちらはローズ基調で(私とっても薔薇が好きなのでローズセンサーが働くのです)生々しいとか青々しいではなく、クラシカルなオールドローズのような感じ。ローズウッドも入っているだろうか。祖母のドレッサーで嗅いだような、どこかパウダリックさも感じとれて、(これもスミレが少し入ってそう)バランスがとれた香りで安心する。まさにC4のイメージとは香りで表現するとこうなるのか、という納得感。(Cは白のイメージなんだよなぁ、こちらのお線香は濃いめの少しばかりコーラル味のあるピンク。)C3とかC5だと調香師さんはどう表現するんだろう…?などと妄想している中で、店員さんが元の場所に戻そうとしたところを呼び止める。

「あっ、これは1つ連れて帰ります」

そのほかに惹かれて手にする香りが不思議と音楽に纏わるものが多く、数本並べたラインナップは、今日はどれにしよう?などと眺めるだけでもワクワク楽しくなるようなチョイスとなった。

堀さん、B4(シ)もお持ち帰りです!
Same of Ritaも超いい香り。ってリタ・ライスやん…
リズムの香りは、中でもお気に入りで大きいやつを。
そういやリタ・ライスへのトリビュートアルバムで、
フランシーンヴァントゥイネンが歌ってる
’Lullaby in Rhythm’ も久々聴きたくなった。余談長。


会計を済ませたあと、久しぶりに祇園方面まで歩いて、八坂神社に参拝へ。

帰り道、空は晴れているのに雨が降ってキラキラしている。ひと気のない鴨川はいつもよりもひらけて乱反射する。いろんな大きさに輝く水面の美しさは音の重なりみたく、その流れに乗るよう、心も素直に流れていくのだった。


さぁ、今日の〆。まずはC-jam Bluesを流しつつ、これからオスカーピーターソンへ、C4を捧ぐ。

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