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感情が伝播する広報。日本酒コミュニティの“好き”と“得意”を活かしたPRの裏側

こんにちは、フリーランス広報ユニット「ふたり広報」です。

「ふたり広報」は2022年1月から企業や個人の広報サポートを開始し、このたび、2周年を迎えることができました。そこでチーム発足2周年の記念に、お世話になっている経営者の方や尊敬している広報の方をお招きして「ふたり広報2周年特別対談企画」を開催します。

広報や編集、ライティング、デザインなどに関する悩みは尽きません。本企画では、代表の多葉田愛(@aitabata22)と経営者や広報パーソンが対談。具体的なノウハウやキャリアなど、さまざまな課題解決に役立つ情報をお届けします。

第4弾となる今回お招きしたのは、日本最大級の日本酒オンラインコミュニティ「酒小町」代表・卯月りんさん(@uzuki_rin)。

今回は、酒小町がコミュニティとして発展した背景や、コミュニティメンバーの”共創力”が日本酒の広報・PR活動にどのように影響しているのかについて伺いました。

卯月りん
日本酒コミュニティ「酒小町」代表。大手IT企業で広報や自社サイトのリブランディングを経験し、その後PR会社での企業広報の立ち上げ支援やWeb・SNS中心のPRに従事。2018年、大好きな日本酒の魅力をより多くの人に伝えるため、日本酒の広報PRを目的としたクリエイティブチーム「酒小町」を立ち上げる。さらに2020年には「酒小町」をコミュニティ化。2024年現在、コミュニティメンバーは100名を超え、日本最大級の日本酒オンラインコミュニティに。
𝕏:https://twitter.com/uzuki_rin
酒小町:https://community.camp-fire.jp/projects/view/312511

「好きを仕事に」だけじゃない。PRパーソンとしての視点とチームづくり

── 酒小町は日本酒の広報PRチームとして立ち上げられたそうですが、当初からコミュニティ化することを想定していたんでしょうか?

りんさん:いえ、最初は意識していなかったですね。「日本酒で仕事をしたい」という思いでクリエイティブチームを立ち上げたのが酒小町の始まりなんです。

当時はWebメディアを立ち上げ、酒蔵さんのイベントを企画・運営しながら、イベントレポートやインタビュー記事を発信していました。

しかし、2020年のコロナの影響で自粛ムードが高まり、イベントも飲み会も次々になくなってしまって…。そのような状況で、あらためて「人とのつながり」が重要だと感じたんです。

コロナ禍で急速に普及したオンラインサロンの存在も後押しとなり、私たちもお酒で人とつながれるコミュニティ「酒小町」を始めることにしました。

コミュニティ内では、日本酒を楽しむためのイベントや、新しく参加したメンバーの歓迎会をしていますが、それだけではなく酒蔵さんのイベントをゼロから立ち上げていく様子や、クリエイティブの制作過程などの公開もしています。このスタンスはコミュニティになる以前から存在していました。

「自分にないスキルの仕事が見られるのは学びになるし、他のメンバーにも価値があるのでは」という声が寄せられ、現在も続けています。

── クリエイティブの裏側を見せてメンバーの関わり方に多様性を持たせるアプローチは、立ち上げ当初から想定されていたんですね。PR思考をお持ちのりんさんならではの発想だなと感じます。

りんさん:助けてくれるメンバーがいてこそです。私は自分ができないことを率直に言えるタイプなので、苦手な部分は他の人に任せるようにしています。たとえば、PRやSNSは得意ですが、お金の計算や営業事務などは苦手で…(笑)。

それぞれが得意なことをして、苦手なことはサポートしあう。それが酒小町の醍醐味です。

自分では当たり前だと思っているスキルが、実は特技だったりする。だから、コミュニティではみんなの好きなこと・得意なことをかけ合わせながらプロジェクトを進めています。

── 素敵な考え方ですね。ちなみに、りんさんが日本酒を好きになったきっかけは何だったんですか?

りんさん:実は私、炭酸が飲めず、ビールが苦手だったんです。大学生のころに飲み会で乾杯から日本酒を飲んでいると、「1杯目から日本酒!?」とちょっとした会話のきっかけになって。会社員時代も、日本酒が多くの方とのコミュニケーションをスムーズにしてくれました。

日本酒を仕事にしようと思ったのは、他のアルコール類と比べて日本酒にはまだPRの余地があると感じたからです。ウイスキーやワイン、ビールは当時からすでに多くのPRが行われていて、フリーランス1人では戦えないなと。

また、日本酒業界で活躍している女性はまだ少なかったので、そこにもチャンスがあると感じました。私自身の出身地が東京で、他の地域に関わったことがなく「なにかしら地方に関わりながら働きたい」という思いもあったので、日本各地の酒蔵さんとつながれるこの仕事を選びました。

── りんさんは「好きを仕事に」を体現されていますが、それだけではなく、PRパーソンとしてのロジカルな視点もバランスよく持っている点が強みですよね。

りんさん:ありがとうございます...!ロジカルと言ってもらえることは少ないので、ここ、ぜひ記事にしていただけると嬉しいです(笑)。

好きな人が集まるコミュニティづくりの秘密

── 酒小町をコミュニティにしてみて、どのような変化がありましたか?

りんさん:初期の酒小町は私が直接声をかけて集めたメンバーで活動していたんですが、コミュニティ化すると、新しい出会いが一気に増えました。それが一番大きな変化でしたね。

1年、2年と経つにつれて、次第にコミュニティの運営方法もブラッシュアップしていきました。まずはコミュニティマネージャーとしてライターさんに入ってもらい、コミュニティのコンセプトや紹介文を一緒に作成しました。

その後、組織づくりや戦略策定〜実行が得意な方が参画してくれたことで、全体のタスクを定期的に見直し、イベントの運営を効率化できるようになりました。こうして少しずつ土台を築けたことで、コミュニティがさらに活動的になっていったんです。

── 現在(2024年)メンバー数は100名を超えましたが、大人数でも自然とベクトルが合う人が集まっている印象があります。

ありがとうございます。これは酒小町の紹介文に日本酒だけではなく「人の繋がり」のワードが入っているからかなと思います。

── 「人の繋がりと日本酒を楽しむ、大人の遊び場」という、酒小町のコンセプトにマッチするメンバーが集まっているんですね。コンセプトが生まれた背景についても教えていただけますか?

りんさん:このコンセプトは、メンバーが出してくれた案をもとに作りました。特に「人の繋がり」という言葉を文頭に置いたところが大事なポイントです。

というのも、私は「日本酒が好きないい人」よりも、どちらかというと「いい人で、日本酒が好きな人」と繋がりたいんです。酒小町は日本酒を“通じて”人の繋がりを大事にするコミュニティ。

あえて「日本酒」という言葉を後ろに持ってきているところにこだわりがあります。そんなこともあって、酒小町にはいい人がすごく多いんだと思います。

メンバーの多様なスキルを活かした酒小町の広報PR活動

── 酒小町はどのような広報活動を展開していますか?

りんさん:酒小町としては、WebメディアnoteInstagramX、それから私のSNSを通じて広報活動をしています。

クライアントである酒蔵さんへのサポートとしては、SNS運用、イベント企画・運営、アンバサダー活動などがあります。

── 日本酒業界ならではの「PRに対する課題」はありますか?幅広い広報活動を展開されているからこそ、ぜひお聞きしてみたいです。

りんさん:そうですね……PRやSNS運用にまだ慣れていない酒蔵さんが一定数おられる点でしょうか。そのようなクライアントには、PRやSNSの重要性についての基本的な説明から丁寧に行っています。

特に広報やPRは結果がすぐに目に見えにくい部分も多いため、データと数字を使ってわかりやすく説明することを大切にしていますね。

たとえば、酒蔵さんにアンバサダー施策を提案する場合は、SNSでの投稿数よりも「インプレッション数」や「広告換算した場合のコスト」などを提示して広告発信をするよりもPR効果があることを示します。

また、PR施策がすぐ売上に繋がるわけではないので、プロセスをしっかり説明して、期待値調整をしていますね。イベント企画においても、準備に関わる工数まで丁寧に説明し、その価値をクライアントに理解していただくよう努めています。

── データと数字で示し、プロセスも共有する。私もクライアントとのコミュニケーションにおいて大切にしている点なので、とてもよくわかります。ちなみに過去5年間で、特に印象に残っているPR施策はありますか?

りんさん:最近ですと大関株式会社さんのPR施策です。特に、発酵食品の技術を活用したボディーソープ「Branpal.」のプロジェクトでは、きちんと価値を提供できた実感がありましたね。

このプロジェクトでは、新商品発売時の先行モニターとして、Instagramでの商品PRをサポートさせていただきました。

ブランドイメージを損なわないように、適切なモニター選定を最重視。ターゲット層を20~30代、暮らしを豊かに楽しんでいる方に設定することで、ブランド価値の向上に貢献できたと思います。

▼酒小町がサポートした「Branpal.」のモニター投稿はこちら

SNSを活用したPRサポートはクライアントとの信頼関係がとても重要。提案から投稿後の報告まで、資料はしっかりと作り込んでいます。

── 成果を提示し、信頼関係を築くことは次の仕事にも繋がりますよね。PRパーソンとしての、りんさんの強みは何だと思いますか?

りんさん:私の一番の強みは…チームで動ける仲間がいることですかね。酒小町には、Webサイト制作、ライティング、イベント運営、写真撮影、デザイン、マーケティングなど、多様なスキルを持つメンバーがいます。

私ひとりだけでは決して引き受けられないクライアントの要望も、チームメンバーがいれば応えられる。それぞれの“得意”を活かしながら、幅広い広報サポートができるのは強みです。

あとは、私自身がPR企業での経験やSNS運用の実績があり、日本酒という特定のジャンルに特化して活動していることも強みのひとつでしょうか。

好きなクライアント、メンバー、コンテンツを仕事にしているからこそ、熱量高くアウトプットできているのだと思います。

感情が伝播するPRを。「広報」×「コミュニティ」の相乗効果

── コミュニティを運営するうえで、目線がクライアントに向きすぎるとメンバーの満足度が下がる場合もあると思います。りんさんは、メンバーの満足度を高めつつ、自発的な広報活動への参加を促すために何か工夫をしていますか?

りんさん:酒小町では、仕事抜きで楽しめるイベントの比率を高く設定しています。具体的には、メンバーが楽しめるイベントが7割、仕事関連が3割といったところです。

また、クライアントのPR活動に関わってもらう場合には、メンバーにもイベント資料を共有しています。イベントの目的を伝え、SNSでの投稿サンプルやガイドラインなども作ってシェアしていますね。

ほかにも、投稿したくなるようなクオリティの写真を撮影していただいたり、メンバーの投稿に「いいね」やリポストなどのアクションをしたりと、メンバーが関わりやすい環境を作ることに注力しています。

── りんさんは、メンバーへの報連相がとても丁寧ですよね。クライアントからのフィードバックもメンバーに共有していて、それがメンバーの信頼感や熱量の高さに繋がっているのかなと感じました。酒小町がクライアントに提供できる価値についてはどう考えていますか?

りんさん:クライアントのニーズに合ったメンバーを選定できる点は、大きな価値のひとつだと思います。酒小町には100名以上のメンバーが所属してくれているので、酒蔵さんのさまざまな要望に答えることができます。

また、メンバーはデジタルネイティブな20~30代が中心です。広告よりも友達の口コミが重視される現代だからこそ、同年代のフォロワーを持つメンバーが発信するUGCは信頼性が高いんです。

※UGC……一般ユーザーによって生成されたコンテンツのこと

幅広いジャンルを発信しているインフルエンサーではなく、普段から日本酒愛のある投稿がタイムラインにあるマイクロインフルエンサーであることも、UGCの信頼性に繋がっていますね。

── これは広告とPRの違いでもあるのかもしれませんね。広告は瞬発力がありますが、広報は長期戦になるほうが多い。ステークホルダーと関係性を築きながら、最終的な目標はコンバージョンだけでなく、「その後もずっと満足していただくこと」を掲げるべきですもんね。

りんさん:まさにおっしゃるとおりで。だから私は、「広告」よりも「広報・PR」のほうが好きなんです。

前職でも自社が発信者である広告のプロジェクトではなく、本当にいいと思っていただいた他者が発信者であるPRのプロジェクトばかり担当していました。広報・PRに求められる「長期的な関係性」と「信頼の構築」は、私と酒小町が大切にしているスタイルです。

── 素晴らしいですね。最後に酒小町の今後のビジョンについて教えてください。

りんさん:酒小町が、メンバー主導の「共創コミュニティ」として成長することです。すでに、クライアントのプロジェクトもメンバーが積極的に推進してくれるようになりつつあるので、これからはそれをさらに発展させていきたいですね。

コミュニティを始めた当初は「りんさんがやっている酒小町」だったんですが、それを「◯◯さんがいる酒小町」といろいろなメンバーの側面が見られる形にどんどん変えていきたいです。

酒小町は素敵なメンバーが揃っているので、こんな素敵な人が酒小町のメンバーなんだと思っていただけることでコミュニティ全体の価値も高まると考えています。もちろんあいちゃんもその1人です。いつもありがとうございます!!

── こちらこそありがとうございます!りんさんとの広報トーク、とても楽しかったです。

🤝 ふたり広報
企画やデザイン、ライティングなど、様々なスキルを持つフリーランスがチームを組み、広報活動を支援。既存の広報の枠組みにとらわれない“新しい広報のカタチ”をご提案します。
https://futari-kouhou.com/

✍️Marble
インタビュー、編集、広報など、「書く」+αのスキル を混ぜ合わせて、持続的なフリーランスライフを実現するスクール「Marble」を運営しています。
https://marble-school.studio.site/

🎤Interviewer:多葉田愛
✍️Writer:間宮まさかず
📝Editor:おのまり

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