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『旧市町村日誌』31寒波がやってきた佐賀で 文・写真 仁科勝介(かつお)

12/15(金)曇りと雨

 雲行きが怪しいとわかっていたので、実際に雨が降るか、降らないかは問題にせず、朝から作業をする。今日はある程度のゆとりを持った上で、だいたいこれぐらいの時間でこれを終わらせたい、という目標タイムを持って取り組んだわけだが、今までよく、旅を続けながら作業をしているなとじぶんにも多少驚かされる。

 

要は、どれだけ時間があってもなくても、やることの量というものは、案外変わらなかったりする。時間にゆとりがある人ではなく、忙しい人に仕事を頼むといい仕上がりになる、という話も聞いたことがある。そして、そのことは身の回りでも実感がある(もちろん、すべてがそうだとは言わない)。とにかく、小さなことで一喜一憂する前に、まずは目の前にあるひとつひとつを、コツコツ頑張るのがいい。

 

12/16(土)曇りと雨

 16時まで作業をした後、2年前に出演したラジオを通して知り合った方とお会いした。唐津の美味しい鮨屋さんでご馳走になる。大将が根っからのカブ好きで、とても好意的に接してくださった。小さなきっかけから、縁は広がっていく。その多くは、じぶんが無意識に持っている心のベクトルの方へ。

 

12/17(日)雪40%、曇り20%

 タイツを2枚、ズボンを2枚、ウルトラライトダウンを2枚、全部着て散策をした。雪が何度も舞った日だった。いちばん印象的だったのは、高校生たちが神社の境内へ、長い石段を使った冬トレに来ていたことだ。あの光景に出会えただけで、今日は旅をして良かったと思った。まだ、天気予報では雪マークが続いている。雪が舞うだけなのか、積もるのか。それによって動き方が大きく変わる。

 

12/18(月)曇りと雨

 天気予報が微妙なので、動くのを控える。オイル交換をしてもらった。優しいおじさんだった。午後、映画『君たちはどう生きるか』の2回目を観る。宮﨑駿さんのプロフェッショナル仕事の流儀を観たことで、見え方がぜんぜん違うのだった。宮﨑さん! 鈴木さん! 高畑さん! と。

 

さらに、映画が終わって30分後に、『ゴジラ-1.0』の上映があった。観たいと思っていたし、ちょうど映画館にいるので、いいタイミングだと思って連続して観る。しかし、上映が始まった20分後ぐらいに、気持ち悪くなってしまい、途中退出してしまった。映画館で途中退出するなんて初めてだ。しかも、クラクラ意識朦朧とし、トイレを目指したものの、たどり着く前の廊下で、ぼく自身がゴジラになってしまった。“ゴジラになってしまった“とは、想像にお任せである。もう、事件であった。それでも、女性スタッフの方が親身に対応してくださって、優しさが骨の髄に染みた。

 

夜になっても体調が治らず、苦しむ。まさか、映画を観て体調を崩すとは。

 

12/19(火)曇りと雨

 朝から体が思うように動かず、何もできない。何もしない。ひたすら寝る。

 

ただ、食欲はやや少ないけれど、夜になるにつれて、体調が良くなるのを感じた。

 

12/20(水)曇りと雨

 徐々に体力が回復して、午後には完治したと思った。2日ほどで治って、ホントよかった。

 

12/21(木)曇りと雪

 佐賀市の平野部では、思っていたよりも雪は積もらなかった。しかし、雪そのものは堂々と舞っていたのだった。ゆめタウンに一台だけ、雪国から来たかのような、雪がどっさりと積もった、佐賀ナンバーの車があった。同じ佐賀県でも、山沿いはやっぱり積雪がぜんぜん違うのだなと感じる。富士や三瀬、脊振の地域を想像した。

 

12/22(金)雪

 朝から雪が積もった。佐賀市街地を歩く。これだけの雪の中を歩くのは久しぶりで、懐かしくもあり、嬉しかった。もちろん、雪国の暮らしは大変なので、嬉しいという言葉が甘いこともわかっている。でも、佐賀市で雪と出会うのは、最初で最後かもしれないと思ったから。旅の巡り合わせだと。

 

夜に『PERFECT DAYS』を観た。体調も問題なしだ。そして、トイレ清掃のエピソードが、じぶんの旅とリンクして感じられるなんて、思いもしなかった。日々を肯定できた。映画を見て、何も感じない人がいるかもしれないとも思った。最後までエンドロールを観なかった人のように。それは人それぞれだ。世界はつながっているようでつながっていなかったりする、と映画でも言っていた。じぶんにとって、いい映画に出会えた。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。

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