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『もう一度旅に出る前に』38 距離感 文・写真 仁科勝介(かつお)

訪問という形になる。岡山から東京まで新幹線で3時間。実費だし夜行バスに頼りたくもなるけれど、いまはお金よりも時間。それに、実家に戻って何日かは、朝から図書館で3時間(座席の利用時間分)読書をしていたので、ハッと気づいた。この新幹線は3時間の移動式図書館なのだ。ほら、図書館の自動ドアを出たつもりが、品川じゃないか。

3月のうちにもう一度東京に行くだろうと思っているので、今回は今回のミッションをこなす。とはいえ旅の買い物や本を探して図書室へ行ったり、そして撮影にお伺いしたりと、毎日ぎゅうぎゅうに奔走しているわけではない。でも、自分にとっては大事な過ごし方。できるだけ何もしないように、何もしない。

この前実家で久しぶりにテレビを見たとき、相当なインパクトがあった。地上波とはいえ、ほんとうに東京中心の内容が多いのだなあ。関東の人はいいかもしれないが、西日本で生まれ育ったうちの父と母が見ても、確かにつまらないと感じることもあるだろう。父が夕食どき、バラエティやニュースではなく、必ず名探偵コナンの録画を見ているのも、多少腑に落ちる。東京の様子だとか、父には関係がないのだ。父はコナンが毎晩事件を解決してくれる方が好きだ。

ぼくも上京前は、千歳烏山や経堂あたりのおしゃれなランチが紹介されているのを見て、どこなんだろうなあと思ったことがある。ちとせからすやま? きょうどう? と。それを知りたくて、東京を1200km歩いたりもした。いまならどちらもわかるし、見え方もずいぶん変わったように感じる。情報の中心が東京にあることは、無意識のうちに影響されてきたのだなあと、メディア論なんて何億回も語られているだろうけれど、骨身にしみる。そして、自分らしい選択をしたいものだ。東京に住んだことで、東京も好きになった。たくさん助けてももらった。かといって東京が日本のすべてではないし、かといって「東京と地方は」と二元論を言い始めたら、キリがない。「キリがないことはない」と、自分で言えるレベルにもない。とにかく、距離感は相手が与えるものではない。自分が心を決めて定めるものだ。日本を巡り始めたら、どう感じるのだろうか。


仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。

HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247

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