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怪談21:最後の戦

眠る前にお経を読んでいた。
お盆が近いということもあり、普段いる土地の供養と守護の為として、日々のお勤めに一巻加えていた。

その日の夜。

夢を見た。ひとりの初老の男性がいる。現役の頃は前線で戦っていたが、今は馬の世話をしているらしい。そんな彼に、声をかける人物がいた。まだ若者だが聡明で、どうやら彼が軍を指揮しているようだとすぐに分かる風態だった。

彼は初老の男性に、次の戦では共に出陣だと伝えていた。理由はわからないが、白羽の矢が立ったのだ。

老兵は戦った。

愛馬も次第に弱っていたが、それでも戦う姿を見て、私はいつの間にか「この人を勝たせるのだ」とついて行く若者になっていた。

夢の中で月日が移り変わる。

どうやら老兵は、病を患っていたようだ。もう長くはないらしい。手土産を持って、各地を回っていた。次の戦に出れば、必死。そうではなくても、もう再び皆に会うことはできないだろうと、それまで縁があった人たちに土産物を配りながら談笑していた。

老いも若きも、笑っていた。けれどその中の一人の女が「もう来れないなんて言わないでくれよ、またこうして顔を見せておくれ」と伝えると、老兵は「人との別れはいつか来る。いつまでも変わらないことを願うのではなく、最後は別れることができなければいけないよ。」と微笑んだ。

その姿は、最早戦う人間のものではなく、どこか僧のようであった。

夢から覚めた私は、静かに手を合わせた。

その後、老兵がどのような最後を迎えたのかは分からない。これがただの夢なのか、いつか生きていた誰かの記憶を垣間見せてもらったのかも。

けれど、名のある人間だけで歴史が出来ているわけはなく。もしかしたら、この土地に生きていたかもしれないどこかの誰かのことを思い出せるように

ここに、怪談として残しておこうかと…






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