【詩】おしるこプール

カボチャをくりぬきたい。カボチャをくりぬいてお椀をつくりたい。そのなかにおしるこを注ぐとちょうどいいのはわかっているから、とぷとぷ、ちょっと待ってて、とぷとぷ、焦らないで。べつに誰かから急かされているわけではないけど、ひとりごとのリズムってことで。

メモに書いてあるように、スプーンでおしるこをゆっくりかきまぜる。手順その一、手順その二、手順その三、OK、ええと次は、ひゃあ、べとべとの手でメモ用紙を触っちゃった。おしるこ色の指紋がじんわりしみていく。なんてしみじみしてる場合じゃなかった、なんだっけ、ええと次は、あ、そうそう、小さじ一杯のワニ。

スーパーの野菜売り場で安くなっていた、豆粒ほどのおちびなワニ一匹。どう考えてもワニは野菜じゃないし、そもそも食べないし、大雑把だなぁ、と文句を言いながらも結局買ってしまったのは悔しい。

キンキンに冷えたプチ・ワニを冷蔵庫から出してきて、あれ、ぐっすり寝てる。このワニはどんな夢をみているんだろう。自分より大きなワニにかじられる、そんな悪夢にうなされることだってあるかもしれない。なんだか歯ぎしりしてるみたいだし、起こしたほうがいいのかな。つんつん、起きない。つんつんつん、起きない。

このまま待っていても埒が明かないので、指でつまんでおしるこに浮かべる。すると、とろんとした目で、もぞもぞ動いて泳ぎだした。よかった。

昔、おしるこはプールになる素質があります、という話を英語でプレゼンしないといけない授業があって、滑舌がわるいのなんのとよくわからない理由でさんざん居残り練習させられたっけ。こんなこと繰り返したってひとつも役に立たないし、はやく家に帰りたいと思ったものだけど、そっか、おしるこはプールになるんだ。

カボチャを揺らすと、おしるこは波打ち、プチ・ワニはパチャパチャ泳ぐ。ぼんやり眺める。そうしているうちに、夏がやってきそうな気がする。

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