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契約書レビュー虎の巻⓵~概論

心構え

契約書のレビューは、すでに一応出来上がっているドラフトの存在を前提にそれを評価し、必要に応じて修正を加えるものであるため、レビュー者(法務担当者や弁護士)が行った仕事の成果はドラフトに加えた修正やコメント等にしか現れない。

そして、締結された契約書が実際に良い契約書であったか悪い契約書であったかは、後にトラブルが発生して契約書を参照する必要が出てきたりしない限り分からないことが多い。

そのため手抜きしてレビューしても何もフィードバックがなく無事にやり過ごせてしまうこともあれば、しっかりレビューしたにもかかわらず(もしくはしっかりレビューしたからこそ)トラブルが発生せずこれまた何の評価も得られないということも普通にある。

また、専門的知識のないクライアントがレビュー者の仕事の質の良し悪しを判断することは極めて難しく、レビュー結果を盲目的に信頼するか、あるいは修正やコメントの量の多さで判断してしまったりしがちとなる。

レビュー者の職業倫理として、おざなりなレビューで済ませたり、不必要な修正やコメントを量産したりしないことを肝に銘じたい。

本稿の目的

さて、前述のように契約書レビューの成果はクライアントには分かりづらく、この手順で作業をこなせば完了という明確な手順も存在しない(ように初めは見える)。

この界隈でありがちなのは、漫然と契約書を読んでみてなんとなく感じた違和感に基づいて修正してみたり、思いつきで加筆してみたりといったやり方で進め、上司からの大雑把なフィードバックと契約法務に関する概括的な書籍を頼りに、つまり主に経験を積むことを通じて、徐々にランダムに職人技を体得していくという成長ルートである。

本稿では、このような従来型のやり方をより効率的なものに置き換えてもらうべく、なるべく実践的な契約書レビューの手順を提示したい。

契約書レビューの手順(概論)

契約書レビューの道しるべ

初心者がクライアントから渡されたドラフトを見て何をどうしていいか分からないのは、そこに道しるべがないからである。
契約書レビューの道しるべを見つける鍵は、そもそも契約書の役割が何であるのかを知ることである。

契約書の最大の役割は当事者間の権利義務を定めることである。
したがって、レビュー者は各条項の存否によって当事者にどのような権利義務が発生するのかを常に意識していなければならない。
契約当事者間の権利義務に契約書がどのような影響を及ぼすかを正確に把握するためには、その契約に適用される民法その他の私法の規定を知っており、かつ任意規定か強行規定かも区別できていなければならない。
そのような前提知識に照らして初めて、今検討している当該条項が存在することによって又はそれを削除することによって当事者間にどのような権利義務が設定されることになるのかが分かる。

契約書の役割の第2は、取引開始後に締結済みの契約書の内容を参照することを通じて、契約当事者の行為に規律をもたらすことである。
端的にいうと、契約書にこう書いてあるのだからこうしてくださいよと相手に言いやすくなるという効果がある。
法的効果如何にかかわらず、すなわち裁判の場において裁判官がそのとおりの判決をすることが見込まれない場合であっても、ビジネスの現場では契約書に書いてある内容は一定の重みをもって受け止められる。
あらゆる契約書に含まれる「協議条項」がその典型例である。
そのため、契約当事者間の権利義務関係には何の影響もないとしても、クライアントが実際に取引を遂行するにあたって使い勝手のよい契約書となるように文言を考えなければならない。

契約書の役割の第3は、契約交渉にあたりドラフトをたたき台にして合意形成を促進することである。
当事者間の対話だけでは詰め切れない細部や複雑な取決めについては、実際に契約書の条項をドラフトすることによって両者の意向が明確化される。
したがって、レビュー者としては個別の条項案について契約当事者間にどのような権利義務関係が設定されることになるのかをクライアントに分かりやすく説明し、必要に応じてありうる別の選択肢を提示しなければならない。

クライアントとのコミュニケーション

意味のあるレビューを行うためにはビジネスの理解が欠かせない。

レビュー者は必ずしもビジネスの知見が豊富なわけではないため、必要な情報はクライアントから引き出しておくことが重要である。
どのような情報が必要なのかは後述する。

クライアントとの関係では、こちらが十分な説明をするだけでなく十分な説明を受けることも同じくらい重要なのである。

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