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脳を使おう

ひとつ、道にウンチが落ちていた。
人のものではないことは、その形状と色からほぼわかる。
おそらく中型犬のウンチだろうと思われる。
そのウンチを見つけた私は、今チワワのピノを連れて散歩中だが、超小型犬のウンチとは比べ物にならない大きさである。
東京で野良犬のものという選択肢はなくしてよいだろうから、不届き者の飼い主による放置か、歩きながら用を足してしまうタイプの犬で気付けなかったかのどちらかであろう。
どちらにしても、そのウンチは道の真ん中で主役級の存在感を放っていた。
これから登校する小学生がたくさん通る道だ。私が代わりに片付けようと思ったが、その大きさと独特の色合いに躊躇してしまった。
電柱の根本に行きたがるピノに引かれて、その場から1歩動いたとき、角からおばあさんが現れて、私→ピノ→ウンチの順番で情報を処理すると、険しい顔で「ちゃんとウンチ拾ってよ」と言って去ろうとした。
状況として疑われるのはしょうがなかったのかもしれないが、数秒で有罪判決まで至ったような気がして、その単純な思考に腹がたった。
「これうちのじゃないんですが」私はおばあさんに言った。
「そんなの、この状況じゃ信じられないでしょ」おばあさんは何もおかしなことは言っていないという様子で、当たり前のように去っていった。
安易な断罪。あのおばあさんには想像力というものがないのだ。見たものにそのまま反応する。思考するということができないのだ、脳機能の0.1%程度しか使っていないのだろう。
私だったらあんなことはしない。いや、しないようにしよう。

ピノを抱きかかえて家に戻ると、リビングで妻が血を流して倒れていた。
そのすぐ横には、知らない若い男が立っていて、手には包丁を持っている。
さて、脳を使おう。

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