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スパイも飯は食う

振り返ってみて学校を楽しいと思ったことは一度もない。義務教育のころからそうである。私は田舎の中学に通った。小学校の時との大きな違いは、上級生がいばるということである。年齢が上なら無条件で格上になる。それが私は嫌でたまらなかった。

不良生徒は不良どうしでけんかにあけくれればいいのだが、堅気の生徒に手を出すのだから質が悪い。実際のところただのいじめっ子である。県内でも下から数えたほうがいい問題校だった。

日本の多くの中小零細企業に見られる、使用者と労働者の「主従関係」への予行練習の場だったように思う。中小零細企業の社員は労働組合一つつくれない場合が多い。原因の一環は実際の教育環境にもあるだろう。

中学時代、私は本心を隠すようになった。できるだけ目立たず平穏に過ごすためである。それが当時の私の処世術らしきものだったのだが、ある意味スパイのようではなかろうか。深く静かに潜行するといえばかっこいいのだが……

『無名』はトニー・レオンとワン・イーボーのシルエットが美しいスタイリッシュな映画だった。いちばん印象深かったのは、数ある食事の場面である。スパイとして潜入しているのは、飯を食うためでもある。しっかり食事を取り命をつなぐためである。

中学時代の私は顔の造作はともかくとして、ワン・イーボーのように表情は硬質だった。これからはトニー・レオンのような余裕の笑顔を湛えていたいものである。

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