映画三本、はしごした話
昔は映画二本立てとかよくあった。一本の料金で二本観られた。一種の抱き合わせ商法だが、当時はだいたい両方観る客が多かったと記憶している。こういうところからも時代のゆるさというかおおらかさが垣間見える。それだけ世の中に余裕があったともいえる。
今回久々に一日で複数の映画を観たが、もちろん三本分の料金を支払った。鑑賞作品は、『関心領域』『あんのこと』『シド・バレット独りぼっちの世界』である。
はしごといっても一つの映画館で観られたのはシネコンが当たり前の現代ならではだが。とはいえシネコンが主流になってからもずいぶんと月日がたっている。ただ、シネコンでもミニシアター系の作品を上映することがある。これは喜ばしい。
最初に観たのは『関心領域』である。アウシュビッツ・ビルケナウ収容所脇に住むルドルフ・ヘスとその家族を描いた作品である。引いた絵が多く、観客に眺めている感覚を持たそうとしたのかもしれないが、私は眠くなり、後半どう進んだのか覚えていない。
アウシュビッツ強制収容所を舞台にした映画では、『サウルの息子』がある。こちらは強烈な印象が残っている。
二本目は『あんのこと』。あらためてコロナ禍を思い出す。あれだけのことさえ、のど元過ぎればなんとやらという雰囲気さえ漂うが、あの年月を生き抜いたことはただごとじゃないと思い知る。渦中にひっそりと消えていった命に思いを致す時間をくれた作品になった。
アフターコロナを迎えつつあるのが今かもしれないが、もうすぐコロナ前に戻りたいなどいう声が聞こえてくるだろう。私自身はビフォアコロナになんざ帰りたくもない。それほどいい時代だったか。
最後に鑑賞したのは『シド・バレット独りぼっちの世界』である。元ピンクフロイドのシド・バレットの生涯をたどるドキュメンタリーだが、ネットフリックスや、アマゾンプライムでやるのがふさわしいと思った。大きなスクリーンでやる意味を意識できなかかった。
ただ、ラストに流れた「I wish you were here あなたがそばにいてほしい」を耳にすると万感迫る思いがした。そして鑑賞後しばらくたった今にして思う。疲れてスマホばかり眺めてしまう人々のなかに、シドに匹敵する才能があるのではないかと。咲くべき才能を無駄にしてはいないかと。
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