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今ここに、PERFECT DAYS

役所広司演ずる清掃員の平山が銀塩カメラを構える。ファインダーの向こうに木々の葉が揺れていた。

朝は道の落ち葉を掃く老婦人の箒の音で起きる。いつも同じ時間に近所を掃除する人が、街のトイレ清掃人である平山の朝にかかわっている。誰かのルーティンが別の誰かのルーティンとつながる。決して自己完結しているわけではない。淡々とした日常を、静かにカメラが追う。

スクリーンに映る東京は表面的に平和そうに見えるが、ここ十数年での変貌ぶりも映していく。礼節を忘れて疑い深くなった日本人の姿もあった。

が、それさえも日常に交錯する綾なのかもしれない。時々スカイツリーが映し出される。主人公を見守るかのように物語の模様を彩っていた。

劇中平山の過去が映し出される場面がある。それはある意味大きな存在だが、平山は過去に還ることはない。平山が昼休みに銀塩カメラで撮ろうとしていたのは、木々と葉が織りなすひとコマである。一つとして同じものはない。

それは同じように見える一日が実は違うことを表している。今ここは一瞬しかない。主人公は過去ではなく、今を静かに愛して生きているのである。

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