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夏の通り雨

私がうたた寝から目を覚ますと、窓の外は空いっぱいに灰色が広がり、遠くの方で雷が鳴り響いていた。
私は少しイラついた。これから散歩がてらに図書館へ行き、その後お気に入りのパンを買って帰ろうと思っていたのに。
家の前の木々は風に大きく揺らされ、さっきまで鳴いていたセミ達がハラハラと空へと飛び散って行った。
そして、すぐに大粒の雨がアスファルトを濡らし、見慣れた景色が霞んでゆく。

私は窓を閉め、さっき読んでいた本の言葉を思い出した。
「受け入れること」
自分がいくらじたばたしても、どうにもならないこと。こんな時もあるのだと自分に言い聞かせて深呼吸した。
ベランダで伸びた向日葵が下をむいて雨に打たれている。

窓ガラスに映る自分。
最近イライラがやたら多くなってきている。それが顔の表情にもにじみ出ていた。
毎日、意味もなく時計にせかされて、増えてゆく苛立ちと不安を両手いっぱいに抱え込んで。それでも「もっと、もっと」とダメな自分を隠すために、がむしゃらに頑張り続けてきた。
「私、何やってるんだろう」
涙が一気にあふれ出て、私は声を出して泣いてしまった。張りつめていた何かが壊れていくのを感じながら。

どのくらい時間が経ったのだろう。気が付くと雨音は聞こえない。
とりあえず私はコップに残っていた冷めたコーヒーを飲み干して、小さくため息をついた。
ため息は鳴きだしたセミの声にとけて、雨と共に消えていった。
虹が見えた。私は新しくコーヒーをいれ直し、ゆっくりと虹を楽しんだ。



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