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ピカソ作 『La vie』 (ラ・ヴィ)

ピカソは時代によって作風がガラッと変わりますが、個人的にはピカソ若かりし「青の時代」の作品群に一番魅力を感じます。その中でもこの絵は自分の中では一二を争うものです。

タイトルの『La vie』はフランス語で、これを日本語にすると『人生』と訳せます。

この絵を初めて見たのは2018年の秋にパリのオルセー美術館で行われたピカソ青の時代とバラ色の時代の作品を集めた展示会でした。

この時は平日の夜にも関わらず美術館の前に長蛇の列が出来ていて、ようやく絵の前まで辿り着いても押し寄せる人の波に逆らえず、わずかな時間で全体像を見ることしか叶いませんでした。

普段はアメリカのクリーブランドにあるこの絵を見れる機会はもうないかなあ、、と思っていたら、2019年3月にたまたま滞在していたスイスのバーゼル郊外で幸運にも再会できました。

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世界有数の観光都市パリと比べると圧倒的に美術館を訪れる人も少ないこのスイスの外れでは、ゆっくりと間近で絵を鑑賞する機会に恵まれました。

この時代の作品群の例に漏れず、青を基調とした色彩で描かれたこの絵の中で、まず目に止まるのは裸の男女と赤ちゃんを抱いた女性です。

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裸の男女はピカソの親友カサジェマスと彼が恋したジェルメールと言われていますが、元々はカサジェマスでなくピカソ本人が描かれていた事が赤外線解析によってわかっています。

男性が赤ちゃんを指差している描写はキリスト教画の伝統的な手法でもあるので、右側に描かれた母子にはマリアとキリストという宗教的な要素も含まれるのかもしれません。

また、男女と親子が性愛と母子愛の対比を表しているとも見えます。
そして両者の間にあるキャンパスに描かれているのは愛と対極にある孤独や絶望感でしょうか?上の絵に描かれる男性はピカソ本人とも言われています。

様々な要素が詰め込まれ解釈の分かれるなんとも不思議な絵ですが、なぜか惹きつけられます。このときは近くで細部までゆっくり見れて幸運でした。

この絵に代表される「青の時代」(1901-1904)のピカソは20代前半。彼にとっては人生で一番苦しい時期でした。

カサジェマスの自殺を機にこの色彩を好んで使うようになりました。青を基調として社会の底辺に目を向け多くの作品を描いています。

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一見陰鬱に見えますが、内に秘めたエネルギーが伝わってくるのがこの時代の作品群の特徴です。後に大きく飛躍するピカソが、もがき苦しみながら必死に自分自身と向き合った証なのでしょうね。

最近は芸術に触れる機会が少なくなってしまいましたが、またそうした時間を大切にしていきたいものです。


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