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スピッツ『ハチミツ』 (1995)

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スピッツはどのアルバムもクオリティが高く、ここで取り上げたいアルバムも多いのですが、私自身が最初に聴いた一枚でもあるし、ジャケも素敵だし、代表曲「ロビンソン」が収録された、一般的に言っても最も有名なアルバムでもあると思うので、この作品から取り上げることにしました。
1995年に大ブレイクした彼らですが、この段階ですでに6枚目のアルバムということになります。初のアルバムチャートNo.1を獲得した記念すべきアルバムで、とても聴きやすい、洗練された内容の作品になっていると思います。キャッチ―な楽曲の数々と、それぞれに秘められた一筋縄ではいかない歌詞の内容とのギャップ。そして、そこを考察(というか、妄想?)していく楽しみ。各楽曲の歌詞の考察はネットでもすでに多く方がされているし、長くなってしまうので、ここで細かく考察していくのは省略しますが、キャリアに裏打ちされたバンドとしての演奏技術や一体感、草野さんの歌唱力といった音楽的な土台がしっかりしているからこそ、色々な楽しみ方ができるのだと思います。

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1 ハチミツ
アルバムのオープニングを飾るタイトル曲。明るく軽快なJ-POPといった感じのナンバーで、初めてスピッツを聴く人にはとてもスムーズに入っていきやすいアルバムのスタートになっていると思います。逆に言うと、こういうオープニングはスピッツのアルバムとしてはかなり異色な部類なのかもしれませんが。ノッケから粋でかっこいいAメロ。変拍子+シンコペーションがいいスパイスになっていますね。Aメロ~Bメロという比較的シンプルな構成の曲ではありますが、2回目の間奏で新たな展開が・・・。そしてイントロに戻って、再び歌い出すのかと思ったら、あっさりとしたエンディングで意表を突かれます。

2. 涙がキラリ☆
ハウンドドッグの「フォルティシモ」を彷彿とさせるようなミディアム・ロック感満載のイントロから一転して ♪目覚めてすぐのコウモリが~ と一挙にスピッツ・ワールドに引き込まれますね。お馴染みのサビを持つこのナンバー、「ロビンソン」に続くシングル曲として1995年(平成7年)7月7日にリリースされました。七夕を意識して、曲名の最後に☆がついているというのが面白いですね。「ロビンソン」のロング・ヒット中にこの「涙がキラリ☆」もリリースされヒット、その後9月にアルバム『ハチミツ』がリリースされていますので、95年はスピッツの曲がラジオやテレビからずっと流れていた、そんな印象があります☆

3. 歩き出せ、クローバー
スピッツの楽曲って、シングル曲はもちろんのこと、こういった単なるアルバム収録曲もしっかり作り込まれていて、どの曲もクオリティが高く楽しめるんですよね。この曲もAメロから印象的なメロディーを繰り出してきます。その後の展開も、1番では♪歩き出せ、クローバー~ というサビへ向かっていきますが、2番ではサビへはいかずにCメロがここで登場します。このあたり、なかなかグッとくる展開でかっこいいです。歌詞も、95年という混沌とした時代(阪神大震災、地下鉄サリン事件・・・etc.)を力強く歩いて行こう、というような内容になっています。その象徴がクローバーなのですね。

4. ルナルナ
アルバム内で最も軽快で疾走感のあるナンバー。シングル「涙がきらり☆」のカップリングでもあった曲(いわゆるB面曲)ですが、こちらもかなりヒット性のあるナンバーだと思います。グルーヴィーなリズム・ギターやベースの演奏に乗せて、キャッチーなサビへ向かっていく卒のない展開が大好きです。ベース・ソロからストリングス、アコースティックギターのソロへと流れていく間奏もいい感じですね。ルナルナという謎タイトルや、歌詞の全体的な解釈など物議を醸しているナンバーですが、概ねエロい方向へ妄想が進んでいくようで、これも草野マサムネさんの絶妙な仕掛け、といったところでしょうか。「羊の夜をビールで洗う」という表現が特に面白いですね。

5. 愛のことば
シングル曲かと思うくらいお馴染みのナンバーというイメージがあり、スピッツの楽曲の中でも、屈指の印象的なサビを持つナンバーだと思っています。「愛のことば」といえば、ビートルズの「The Word」という曲の邦題がまず思い浮かぶのですが、スピッツの “愛のことば” は雲行きがあやしく、かなり不穏な雰囲気が漂っています。何てったって「煙の中で溶け合いながら、探し続ける愛のことば~」ですからねぇ。「死」を連想させる曲はスピッツには多いのですが、この曲はその代表格。引用をし出すと長くなるので避けますが、戦争の光景や死に向かっていく描写が絶妙で、かなりリアルに響いてきます。

6. トンガリ'95
タイトルや歌詞の通り、このアルバムの中で最もトガッている曲だと思います。まぁ他のアルバムには、もっともっと尖がったナンバーがたくさんあるのですが。スピッツというバンド名自体が、ドイツ語で「とがっている」という意味なのだそうで、この「トンガリ'95」は彼らのテーマソングとも言えるナンバーなのですが、ロック調のギター・サウンドに乗せて、爽やかな声で ♪とがっている~ と何度も連呼するインパクトはなかなかなものだと思います。

7. あじさい通り
これは昭和時代のフォーク~ニューミュージックの香りが漂うナンバー。前曲「トンガリ'95」からの流れも良くて、この曲のイントロで空気が一挙に引き締まる瞬間がめちゃめちゃ好きなんですよね。梅雨の時期に通りを歩いていると、自然とこのイントロと ♪雨 降り続くよあじさい通りを~ という歌い出しが脳内で自動再生されます。そのタイミングで咲いている紫陽花を見かけられたら尚いいのですが・・・。Aメロのバックのダウン・ストロークの表打ちのギターとか、途中から絡んでくるマリンバとか、昭和の雰囲気がプンプン漂っていますね。

8. ロビンソン
この曲のイントロが流れた時のワクワク感は、多くの日本人が共通して持っている感覚なのではないでしょうか。そして、イントロが終わると、そこにいる皆がそろって ♪新しい季節は~ と一斉に歌い出す。そんな光景までが頭の中に浮かんでしまう私は、この曲贔屓しすぎですかね?(さらに言うと、イントロ半分のところで間違って歌い出しちゃう人や、サビのところでキーが高すぎて急に1オクターブ下げて歌う男子なども “ロビンソンあるある”ですな・笑)
そのくらい国民的レベルで有名なナンバー(スピッツ歴代シングル売り上げ枚数も第1位)なわけですが、他に個人的ツボなポイントとしては、イントロや間奏のアルペジオ風ギターとその後ろにさりげなく絡むオクターブ奏法のギターとのアンサンブル。そして、これだけキャッチ―なメロディーを持つ超有名曲なのに、そこに乗せて歌われる歌詞は難解、不穏なフワッとしたストーリーで、草野さんならではの世界観に溢れています。そこのところを両立させているのがホントすごいと思います。

9. Y
イントロなしでシンプルなアルペジオのみをバックに歌い出されるバラード。アルバム内で唯一のこの雰囲気が、流れの中でいいアクセントになっていると思います。2ヴァース目も、まだまだドラムは入らずに、ストリングスとベースが効果的に絡んできます。そして、サビ。ここでドラムが入ってきますが、リズムは最後までシンプルでおとなしい感じ。間奏は、シンセや管楽器などのアンサンブルを中心に組み立てられていて、アレンジ面でもこのアルバム唯一の雰囲気を漂わせていますね。スピッツの曲は謎タイトルが多いのですが、この「Y」は比較的イメージしやすいかもしれません。サビの ♪やがて君は鳥になる~ も「別れ」や「死」を連想させます。

10. グラスホッパー
アルバム内で「トンガリ'95」と並んで、軽快なロック・サウンドが楽しめるナンバーですが、こっちのほうがちょっとB級感が漂っているのが面白いところで、Bメロの♪ホントなら 死ぬまで恋も知らないで~ あたりのメロディー展開なんかは思わずニンマリしてしまいます。グラスホッパーは英語でバッタという意味ですが、スピッツの歌詞には生き物(動物や昆虫)の名前がよく登場しますよね。このアルバムでも「仔犬」「猫」「コウモリ」「蜂」などが登場しますが、他に昆虫シリーズ(?)だと、セカンド『名前をつけてやる』収録の「鈴虫の夜」が何と言っても印象的ですね。

11. 君と暮らせたら
アルバムの最後に、さりげなく良い曲を放り込んでくるなぁという印象。歌詞も比較的わかりやすく、メロディーもキャッチ―。間奏の12弦ギターは60年代ロック・サウンドへのオマージュでしょう。♪可愛い歳月を 君と暮らせたら~ とこのままシンプルに終わるのかと思ったら、最後の最後にまさかのCメロの登場。♪今日も眠りの世界へと すべり落ちていく  ・・・・すべて眠りにつく前の妄想、というオチだったようです。

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このアルバムは一般的な聴きやすさがあるのと同時に、マニアックな意味でのスピッツらしさがあちこちに仕掛けられていて、それらに一つひとつ気づいていく過程がホント楽しいですね。
スピッツのアルバムはどれもクオリティが高くて、それぞれが聴き応えがあるので他の作品もまた取り上げていきたいと思うのですが、何をピック・アップするのかホント迷っちゃいますねぇ。

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