夏目漱石「坊っちゃん」

夏目漱石 「坊っちゃん」

中学生か高校生の頃に通しで読んだきりだったのを、久しぶりに再読してみた。

やっぱり大人になって読み返してみると感じ方が違う。

初めて読んだときはあらすじを追うだけだった。文豪の作品のわりには癖がなく読みやすい部類なのでするする読める。ただ、もともと読書が好きでいろいろな児童書を読んできた子供だったので、正直あらすじに関しては新鮮味を感じられず「へー、こんな話なのかー」くらいの感想しか湧いてこなかった。

今回読み返してみたら、文体そのものに主人公の性格が表れているように感じられた。短くて簡潔で時に痛烈。文章全体が坊ちゃん自身のようにまっすぐで勢いがある。マドンナの美しさを表現するときの不器用で繊細な感じも良い。

おれは美人の形容などが出来る男でないから何にも云えないが全く美人に相違ない。何だか水晶の珠を香水で暖ためて、掌へ握ってみた様な心持ちがした。

小説のテーマとしては勧善懲悪ということなのだろう。汚いやり方で同僚のうらなり君を僻地へ追いやった赤シャツと野だに対して、主人公は山嵐と組んで最終的には鉄拳制裁を加える。ここは物語の一番の見せ場であり、スカッとする場面でもある。

しかしあくまでも私的な制裁を加えただけであって、社会的な制裁にまではいたっていない。この騒動のあと主人公も山嵐も退職しこの地を去るので、社会的制裁を受けたのはこの二人であるともいえる。赤シャツと野だは社会的には何も失うことなく、のうのうと教師の職にとどまり続けるだろう。

単純な「正義は勝つ!」の構図ではないところにリアリティがあって、いつの時代に読んでも色褪せない作品となっているのかもしれない。


話は多少それるが私はスカッとジャパンという番組が嫌いだ。何が嫌いかって、すべてのエピソードが他力本願なところだ。困った私をあの人が救ってくれました、ズバッと言ってくれてスカッとしました、そんな話のオンパレード。

半年に1度くらいの特別番組ならまだしも週1のレギュラー番組になってしまっている。それなりに視聴率が取れているということなのだろう。それだけ他力本願な人間が多いということだ。

猛烈にモヤモヤする。

理不尽な扱いを受けたら自分から反撃するべきなのだ。

白馬に乗った王子様が現れて救ってくれたとしたら感謝はすべきだが、スカッとしている場合ではない。自分でうまく対処できなかったことを恥じる気持ちを、多少なりとも持ったほうがいいと思う。

自分のことは自分が一番に守ってあげなくちゃいけない。

腕力だと体力差でどうにもできないこともあるが、自分の心に危害が加えられた時にまで自ら何も行動しないで思考停止して、誰かが何とかしてくれるのを待っているようではダメだと思う。

がむしゃらにブチ切れたっていいし、多少なら暴れたっていいと思う。相手が卑怯ならこっちも多少は卑怯になっていい。

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