森博嗣「幽霊を創出したのは誰か?」
淡々とした物語の流れの中に、哲学的な思索が含まれている。
期待を裏切らない読後感を味わうことができた。
森博嗣の作品を読むと、感情に負けて靄がかかっていた自分の中の理性がクリアになっていくようで気持ちが良い。
科学技術の進歩によって寿命が伸び、限りなく不死身に近い肉体を人類が手に入れた世界。死なないということに対して、精神がどこまで耐えられるのかという問題は興味深い。精神にも寿命はあるのか。
今では、誰も死を意識していない。かつて、人間は誰も、必ず死を覚悟していたはず。いずれは自分がこの世界から消えてしまう、と考えていた。それが、個人の小ささの象徴でもあったはずだ。
人生のマンネリに陥った場合、人はどうするのか。そして、マンネリに陥った社会は、どこへ向かうのだろうか?
リアルとヴァーチャルの世界を行き来する場面が入ると、いま読んでいる場面がリアルなのかヴァーチャルなのか一瞬分からなくなる。
幽霊とはそもそもリアルなのかヴァーチャルなのか。
生がリアルだとしたら、死はヴァーチャルなのか。
自分が生きているという感覚が、曖昧なものになっていく。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?