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「黄金比の縁」を読んで

#黄金比の縁
#石田夏穂
#集英社
装丁・装画 #鈴木千佳子

■内容
面接不合格者へのパワーワード。
「今回は、ご縁がありませんでした」

「縁」には物凄い説得力がある。就活に限らず世の神羅万象全て説明可能な、とっても便利な言葉。

Kエンジニアリング社員の小野は、夢だった花形のプロセス部に配属されたが、仕事で濡れ衣を着せられ、人事部に左遷させられる。人事に何のやりがいも見いだせない小野は、熱意にあふれていたあの頃から一変、会社への復讐を誓う。

あれから10年。新卒採用チーム担当となった小野はある答えに辿り着いていた。
それは、会社にとって1番の損失は、多少のポンコツを採用し長く雇うより、上昇志向でとっとと転職する秀才を1人でも多く採用すること。
そして、この会社の優秀な退職者の共通項。それは、皆整った顔だということ。
小野は「顔の黄金比を満たす整った顔の応募者だけを採用」し、他は一切考慮しない、という評価軸で新卒の合否を決めることを徹底していく。
小野の思惑通り、入社3年以内の退職率は順調に増え続けていく。「そういう時代ですからね」の一言で、周りからは何も怪しまれない。

そんななか、とある応募者が現れたことで会社の思わぬ闇を知ることとなる。

■感想
小野には、会社への復讐というただ1つの目的がある。逆に言えば人の選別に他の私情(個人の好み等)を一切持ち込まない分、皮肉なことに彼女はある意味誰よりも公正かつ客観的に人を見ていると感じた。
そして彼女は、他の面接官と違い、人が人を選別することの不完全さと責任を誰よりも自覚していて、やっぱり、本人の望まぬところで、人事の人になっていると感じた。

誰も言葉にしない、綺麗事の中に隠れたタブーを小野がバッサリ切る感じが面白かった。
どこまでも真っ直ぐにひねくれていて、同期会から見る同期ヒエラルキーの頂点など、小野の考えに笑ってしまった。

■印象に残った場面
人間はしょせん「自分っぽい」人間が好き。面接官の中村が推すのはいかにも「中村っぽい」やつ(友情・努力・勝利で皆で和気藹々と事を進めるタイプ)。
面接官の太田は「男は学歴、女は語学」以上。自分と同じ大学を出た受験生を贔屓しがち。

新卒採用では「何でもやる」「全部に興味がある」「とにかくチャレンジしたい」「ちょっと怖いけど何でも頑張りたい」といったAVの処女っぽい姿勢が貴ばれる。明確にやりたいことを正直に主張したらなぜか落とされる。

「辞めちゃう子多いよね」と言われても「まあ、そういう時代だから」で何も疑われない。「そういう時代」は最強のスポンサー

「縁」と口にすることにより、誤魔化される生臭さがある。「縁」により蓋をされ、丸め込まれる罪深さがある。だって、それは「縁」などではないのだ。他でもない採用担当、おまえ自身が、ジャッジしているんじゃないか。不完全な一介の人間にもかかわらず、私たちは閻魔大王よろしく他者の運命をベルトコンベヤー式にする。

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