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元図書館司書が紹介する「ずっと読み続けられている芥川賞作品」とは?

こんばんは、古河なつみです。
第168回芥川賞が発表されましたね。

芥川賞・直木賞・本屋大賞の受賞が発表されると、図書館には予約が殺到します。人口の多い自治体では300人待ち……という事態もままありました。そのせいで待ちきれずに「もういいです」と興味を失ってキャンセルしてしまう方も多くいらっしゃいます。

そこで、司書として働いていた時にキャンセル率が低く、予約の順番待ちがすべて解消された後もずっと借りられ続けていた芥川賞の人気作をご紹介します(※私自身がカウンターに立っていた2015年~2022年頃までのいくつかの自治体での経験をもとに記載します)。


男性作家の芥川賞作品で読み継がれているのはこちら!

『スティルライフ』池澤夏樹
『限りなく透明に近いブルー』村上龍
『太陽の季節』石原慎太郎

男性作家さんは既に文学者として評価の定まった方の貸出が多い印象です。

女性作家の芥川賞作品で読み継がれているのはこちら!

『推し、燃ゆ』宇佐見りん
『コンビニ人間』村田沙耶香
『ポトスライムの船』津村記久子
『乳と卵』川上未映子
『ひとり日和』青山七恵
『蹴りたい背中』綿矢りさ
『妊娠カレンダー』小川洋子

女性作家さんは新旧問わず、予約が解消された後も本棚に戻って数日でまた貸出になる本が目立ちます。


特に印象深かった二冊について

驚異的だったのは宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』村田沙耶香さんの『コンビニ人間』です。この二作は予約の順番待ちが完全に解消されるまで丸2年かかりました。予約キャンセル率も低く、キャンセルされた方も「待ちきれないから買っちゃった」と仰る方がほとんどだったので特に印象に残っています。


補足すると……

図書館での貸出数が多いか少ないか、というのは「普段は本を読んでいない人」にどれだけ興味を持たれたのか、を意味します。
そのため、日常に根差した作品や多くの方が興味を持っているテーマ(『推し、燃ゆ』がアイドルの炎上について描いているように)の作品が貸出冊数を伸ばす傾向があります。つまり、一概に「○○さんが人気で○○さんはダメ」という訳ではないと個人的には思っています。


個人的な芥川賞受賞作のオススメはこちら!

高橋弘希さんの『送り火』はヘビーな読み応えですが、情景描写の美しさが素晴らしい文体だと感じました。

あらすじとしては東京から田舎へ引っ越してきた中学生の少年が、徐々に地元の暴力沙汰に巻き込まれていく過程が描かれます。
読後感は多分「怖……」「うわぁ……」系ではあるのですが、主人公の生活に理不尽な暴力が忍び寄ってきて、閉鎖的な村で起きる儀式めいたいじめが、ある種の頂点を迎えるカタルシスにぞくっとします。(ちょっと「ひぐらしのなく頃に」というノベルゲームの雰囲気があって懐かしかったです)。

高橋弘希さんの著書には『指の骨』という小説もあるのですが、戦争を体験していない世代の戦争文学としては平成のベストワンだと思った本なので、ぜひ併せて読んでみてくださいね。

ここまで読んでくださりありがとうございました。
それでは、またの夜に。

古河なつみ

まずはお近くの図書館や本屋さんをぐるっと回ってみてください。あなたが本と出会える機会を得る事が私のなによりの喜びであり、活動のサポートです。