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白い箱

普段は紙器を扱う小さな印刷会社で、パッケージデザインの仕事をしています。

紙箱の場合、オーダーメイドがほとんどで、中に入る製品は千差万別です。外面のグラフィックも考えてはいきますが、なによりも土台となる無地の白い箱を作るところから始まります。
様々な紙や形状の選定、中身の保護や流通・販売上の確認、紙面展開での経済性、内職作業のコスト…、多角的に練って最終段階へと絞り込む。そうして試行錯誤している間に、白い箱はたくさんできていきます。

箱の最終形が完成すると、これら試作品はすべて不要となります。
丁寧にたたんで捨てたりはしません。
なにもない中身を味わうように、ひといきで握りつぶします。整然としていた立方体が有機的にゆがみ、ひしゃげ、破壊されます。白地の無垢さと、紙の脆弱さ。
完成品として世に出ることの決してない儚さを、手の中で確かめます。

ただ空白を包み込んでいるだけのこれら白い箱には、不思議な美しさがあるように思えます。完成して製品となった箱よりもずっと。いつの頃からか、そう強く感じるようになりました。

こうした、あわいにあるものには魅了されます。この白い箱もそのひとつ。素描を描くこと、詩を書くことも。

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