見出し画像

プラットフォーム

「〇〇番線お気を付けください」
アナウンスがプラットフォームに流れる。
しばらくすると速度を落とした電車が滑り込んでくる。

電車のドアが開く場所には10人ほどが整列して並んでいた。

私は混雑している場所が苦手なので少し離れた場所で電車の到着を待っていた。

ゆっくりと電車が止まる。
駅で降りる人たちが車内で列を作っていた。

ドアが開き一番前に立っていた人が駅に降り立つ。
その後2~3人の人が降りようとしたときだった。

プラットフォームに整列していた人たちが車内になだれ込む。
車内にはまだ電車を降りていない人たちが残っているというのに。。。

車内になだれ込む人たちの間をすり抜けるようにして電車を降りる人たち。
顔は無表情。
でもきっと不快な思いをして。。。ないのか?

車内に目を向けると乗り込んでいった人たちが空いている座席目がけて一直線。
座ろうとした席が先行く人に座られてしまい慌てて方向転換をする人とその後を追ってきた人がぶつかりそうになる。
危ないなぁ~

車内を動き回る人たちには空いている座席しか目に入らないのだろう。
その光景は生きている人間の肉を求めて車内を走り回るゾンビのようだった。
(そんな海外映画がありましたよね?観てないのですが)

思考欲望最優先。人のことなど構ってられぬ。構っていたら座れない。。。
「座りたい」という執着執念が人を魔物にしてしまう。

家庭内や会社内では普通の人たちなのだろうけど執着に乗っ取られている間は良心も優しさも羞恥心もなくなってしまう。

思考や欲望の揺さぶりに人は簡単に心を手放してしまう。

ゾンビ。。。いや乗車した人たちの多くは中高年や高齢者。
その割には結構早く動けるのだなぁ。
映画によっては動きの早いゾンビもいたなぁ。
なんて思うとちょっと面白かった(笑)

騒ぎが落ち着き電車の発進を伝えるアナウンス。
私もそろそろ乗り込もうと電車に近づいたときだった。

ひとりの女の子・・・高校生かな・・・が車内が落ち着くのを待ってゆっくりと車内に移動し反対側の閉まっているドアに片方の肩を寄せ大きな窓から外の景色に目を向けた。
その子の周囲だけとても静かで落ち着いた空気が漂っているかのようだった。

車内で大暴れして着席できたゾンビたちは何もなかったかのように静かに座っている。
食事が済んだゾンビはお腹いっぱいになると大人しくなるのかな?
座れなかった人はまだそわそわと周囲を見渡している。
「生きている人間(座席)はもうないのか。俺の座席はどこだ・・・」
まだ半分ゾンビのままだ。

「座りたい」
「座るんだ」
「立って移動なんて絶対に嫌だ」
速度を落とした電車内で空いている席を見つけると人の心にはそんな小さな欲望、エゴが生まれる。
その隙間を悪魔は見逃さない。
心の隙間に入り込んだウィルスはあっという間に周囲に伝染し感染が広まる。
ちょっとしたパニック状態。

人は皆、良心を持っているはずだけどとてもとても脆いもの。
欲望やエゴ、思考に覆われるとあっと言う間に霞んでしまい見ることも感じることも出来なくなる。

誰にでも起きることではあるけれどあの女子学生さんのように感染しない人もいる。
(たまたまかも知れないけど)

「降りる人が先」なんて子供の頃に散々耳にした言葉。
子供の頃は守れていたのに大人になると守れなくなるなんてね。

ゾンビになった姿を子や孫に見られていたとしたら・・・
反対にゾンビになった親やおじいちゃんばあちゃんの見た子や孫はどんな気持ちになるのかな?

映画の中で家族がゾンビになってしまうシーンってとても切ないですもんね~。

ラストシーンまで人としての強さと矜持を持った主人公でいたいよなぁ。

ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?